第48話 AI野球
「これがデータ野球です」
由加里が胸を張った。
女子部の部室にある大型ディスプレイに対戦相手聖蹟新田農業の戦力データが表示されている。
「これを更に生成AIに掛けます。その結果がこれです」
言いながら由加里はパソコンを操作する。ものの数秒でディスプレイに現れたのは、この学校に勝つための作戦だった。
「まず、戦力比較上は聖蹟新田とグリー学園高校は9.5対0.5と出ています」
「話になんねえってことだ」
栞が言った。相変わらずの好戦的態度。岡田キャプテンは唇を噛む。
「特に打撃に限ると10対0という判定が・・・」
「絶対に打ち負けるってこと?」
と美悠紀も辛辣。
岡田はこんなこと頼まなければよかったと後悔した。
だが、由加里が画面を変えると1対0でグリー学園勝利の結果が導かれていた。
「え?」
由加里を除く3人が同時に疑問符付きの声を上げた。
「由加里、これはどういうことだ?」
と栞。
「勝てるんですか?」
岡田が恐る恐る尋ねる。
そして由加里が説明を始めた。
「岡田さんから色々とヒアリングする中で復帰された里中さんの存在がキーとなることが分かりました」
「里中さんって怪我でずっと休んでた3年生の?」
栞が岡田に尋ねる。
「そうなんだ。膝の故障で休んでたんだけど、ようやく完治して復帰したんだ。田野中監督が居なくなった部を大歓迎してる。田野中監督に潰されたようなもんだから」
岡田が話した。
「そうなんだ・・・何があったの?」
美悠紀が聞き返す。
「練習方法のことだよ。田野中監督は里中にもみんなにもウサギ跳びを強要したんだ」
「ウサギ跳びい!?」
「昭和かよ!」
「まあ、ウサギ跳びはともかくその頃から膝に爆弾を抱えていた里中に走り込みとジャンプと下半身の強化をやらせてた」
と岡田が言う。
「それで、潰れた。物理的に里中さんの膝が潰れた・・・最低だな」
「でも、復帰したばかりの里中さんでは戦力的にはどうなんですか?」
美悠紀が由加里に尋ねる。
「それは僕が説明を・・・」
と岡田が話し出した。
「実を言えば、里中の怪我はもう数ヶ月前から直ってたんだ。ただ田野中監督のチームに復帰したくないって、参加しなかったんだ」
「なるほどね」
「で、里中は部活は休んでたけど練習は自分でしてた。実を言えば僕や他の何人かが相手をしてたりも・・・」
「ほお、じゃああたしらが変則ルールゲームに勝ったことが復帰の切っ掛けじゃん」
栞はまた好戦的に言い放った。
「それは認める・・・、練習はしてたけどこのまま辞めちゃう可能性はあったんだ」
その時由加里が口を挟んだ。
「先を説明していいですか?」
「お願いします」
「里中さんの成績を昨年実績で入力し、AIに判断させると、勝てる可能性が出てきました。つまり打撃戦にしないことが条件です。打撃戦になったら確実に負けます。里中さんが好投し、完璧な守備で守り抜くことです」
それから由加里は現在のグリー学園クリーンナップ3人の打撃フォームの解析結果を見せた。それぞれに欠点があり、そこを修正するにはどんな練習が要るのか提示してある。
この3人で1点を取りに行くのだ。そして後は守り抜いて1対0で勝つというシナリオだった。
また里中の投球フォームの解析も済ませていた。里中は変則フォームのサイドスローピッチャーである。この有利さを生かすための投球パターンが聖蹟新田バッターごとに例示されていた。
「但し、あまり時間がありません。どこまで修正できるかは不明です。この作戦で勝てる確率はそれでも83%です」
すると岡田が前に出る。
「凄いよ。勝てるチャンスが83%もあるなんて。前評判じゃ聖蹟新田のコールドゲーム勝ちって地元紙に出てた」
「そりゃ酷いね」
「やるよ。僕たち戦う!」
こうして岡田は目標を持ってチームに戻っていった。里中エース中心に守りのチームを目指す。
と言っても試合は6日後だ。どこまでやれるかは未知数だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます