第43話 変な面接

「御門由加里さん、ですね?」

 美悠紀と栞が並んで座る部屋に入ってきたのは引き締まった身体の少女だった。肩幅もあるようだ。身長はあまり高くはないが足が長い。ただ、結構度の強そうな眼鏡を掛けていた。

「あの、漆原先生にここへ来るように言われたんですが・・・」

 さて、どう話をしたらいいだろうか。美悠紀も栞も第一声が出なかった。机の書類をいじったり時間稼ぎをしている。

「座って」

 美悠紀が一言。御門が椅子を引くと席に着いた。どう話したら・・・2人はまだ悩んでいた。事前に打ち合わせはしたけど、言葉が出ない。

「ああ、もういいや。本音で行こう!」

 この時間に耐えきれなくなって栞が大きな声を出した。御門がビクッと身体を震わせる。

「栞、驚いてるじゃない!」

 美悠紀が注意する。

「あ、ごめん。実は私たちこの前新しくできた女子硬式野球部の園田栞」

「私は真藤美悠紀」

「2年生です。で、君を野球部にスカウトしたい!」

 御門は固まってしまった。今度は御門が声を発しない。

「いや、驚くのはもっともだよねえ」

「そうそう。突然だもんね。実は体育の溝端先生に1年生でとっても運動神経のいい子がいるって教えて貰ったの」

「球技も得意だとか」

すると御門がやっと口を開いた。

「でも、私もう部活入ってます」

「聞いてる。IT研究部だって?」

「はい」

「でもITとは関係ないフィールドワークばかりだとか」

「ええ、まあ。今は調査結果をエクセルに入力するのを・・・」

「IT研究部を悪く言うつもりはないのよ。あなたが楽しければそれで仕方ないんだけど。もし。もし、あまり面白くないなら野球やらない?」

 栞が本音をぶつけた。すると御門も本音をぶつけてくる。

「野球は小5で興味を失いました」

御門がぼそっと言った。

「て、ことは野球やってたの?」

「両親に言われてリトルリーグに」

御門が答えると、栞はうぇい!と思わず声を上げた。

「だからもう野球をやる気はないですよ」

御門はすかさず答える。

「でも・・・」

「リトルリーグの次は地域のフットボールクラブ、こっちも中2で辞めました」

「ええ?!」

「その他に水泳と器械体操、卓球にBMXバイクを」

御門が付け足した。

「凄いわねえ・・・」

「両親が無類のスポーツ好きで、何かの選手にしたかったみたいです。でも見事にそれを全部裏切って、私が興味を持ったのはITでした」

「・・・なるほど」

栞のテンションはだだ下がりだ。これは見込み違いか。

 ただ美悠紀は体育万能のIT好き少女に興味が湧いた。

「ねえねえ、今ね、スコアブックを付けてるんだけど、手書きで記入するの大変で、何かうまい方法ないかしら」

 美悠紀が聞いてみた。

「それでしたら、スコアキーパーってアプリが便利ですよ。野球版の他、サッカーとバスケットボール版が出ています。無料版もありますが、月400円払って有料版の方が高機能です」

「ほんと? それコンピュータで?」

「スマホです。試合見ながらタップするだけで試合内容が記録できます。データはパソコンに落とせるので使い勝手もいいですよ」

御門がすらすらと答えた。

「ねえ栞、それ買ってもらおうよ。手書きでやるの大変だよ」

 美悠紀が思わず栞に相談する。すると御門がまた口を開いた。

「野球だと今は様々なアプリがあります。大谷が筋力アップのアプリを使って記録を取っているってニュースでやってましたよねえ。あと、スピードガンと繫げてピッチャーの能力測定するアプリとか、練習メニューアプリですね。アメリカのスポーツ・ダイナミクス社のアプリが一番なんですが、もっと安いアプリとか、なんなら自作でも出来ます。データ野球って言葉は昔からありますけど、結局我が国のデータ野球は経験と勘が最終判断基準なんですよね。遅れてます」

すらすらと美悠紀の質問にこれだけ答えた御門を尊敬の眼差しで見る。

 そして美悠紀には珍しく大きな声を上げた。

「ねえ、いっしょに野球やろうよ!」

面食らう御門由加里。

「そういう人欲しいんだ。私たちね昔ながらの根性野球なんかやるつもりないの。封建的なこともなし。みんなで楽しくしなやかに野球をやりたい。でもそれには科学的なアプローチが必要だと思うの。あなたみたいな人がいたらそれが出来るかも」

 すると栞も話した。

「本当はコーチとかスタッフにIT技術を持った人がいてもいいんだけど、現にそういう高校も増えてるみたい。でもうちの部9人しかいないんだ。それでこの間選手が1人怪我をして没収試合になって負けちゃった。悔しくてさあ。選手がいるんだ。だから選手兼任でチームのIT分析とか、練習メニュー作成とか、もちろん敵の戦力分析とかやって貰えない?」

「ちょっと変わってるけど、そういうチームメイトになってくれませんか?」

 美悠紀がだめを押した。

 しばらく考え込んでいた御門由加里だったが、やがて顔を真っ直ぐ上げる。美悠紀と栞の目をみて返事をした。

「やります。私を野球部に入れてください」

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