第42話 新入部員を探せ
女子硬式野球部員の募集が始まった。理事長肝いりで校内にポスターが張り出された。
だが、何日経っても入部希望者は現れない。やはり硬式野球は敷居が高いのかも知れない。
「下山田さん。我が校のクラブ活動の状況を教えてくださいませんか?」
下山田が理事長室へ呼ばれたが、そこには既に副校長が来ていた。因みに校長は本部から来ている名ばかりの飾りである。副校長が校長の役目を果たしている。
「我が校生徒のクラブ加入率は99.8%です。0.2%は病気あるいは身体障害のため部活に参加できない生徒です」
「そんなに高いんですか?」
「昔から我が校ではクラブ活動を奨励していますから」
「では、運動部と文化部の比率は?」
「はい。運動部が45%で、文化部が50%です」
「残りの5%は?」
「これは学校公認の校外活動への参加者です」
「どういうことですか?」
山辺が質問する。
「主にボランティア団体への参加ですね。団体を調査して問題なければ認めています」
「なるほど・・・」
「何故今更部活動の実態を?」
下山田はそう言ってニヤリと笑った。
「運動部ではどこが人気なんでしょう?」
「そうですね、女子に限ればダンス部、テニス部、バスケットボール部でしょうか」
「女子硬式野球部に入りたい生徒を探しています」
ついに山辺の本音が出た。
「なかなか難しいんじゃないでしょうか? 先日の市営総合運動公園での試合、評判でしたが、我が校のピッチャーが怪我をしたでしょう。そう言うことも影響していると思いますよ」
と、これは漆原副校長だ。
「はい。保護者から何件か問合せがありました」
下山田がだめを押した。
「問合せって、何なんですか?」
不機嫌そうに山辺が聞く。
「女の子が硬球で野球なんて危ないじゃないか・・・ま、そういうことです」
「古いわねえ・・・」
「保護者ですから」
「漆原さん、下山田さん、誰か一本釣り出来ないでしょうか?」
「期の途中ですしねえ。もう馴染んでるから移籍はなかなか・・・」
答えたのは漆原である。
「分かりました。降参です。女子硬式野球部になんとか1名でも加入して欲しいんです。誰か探してください」
山辺は2人に頭を下げた。生徒たちとの約束だ。何とかしたい。怪我や急病で没収試合はもうごめんだ。
「当たってみるとは言いましたが、いないでしょうね・・・」
「野球はちょっと敷居が高いですな」
漆原と下山田は理事長室を出ると話し合って首を傾げた。
ところが、思わぬ人材が候補に挙がる。情報をもたらしたのは溝端だった。
研修を終えた溝端が漆原副校長に報告に来た。スポーツ教育の研修を終え、いやに熱くなっている。
「副校長、スポーツによる心身の成長はこの時期の青少年にだいじな経験だと分かりました。目から鱗ですよ・・・」
溝端は副校長に捲し立てた。そこで通りかかった下山田共々野球部候補の女子について聞いてみたのだ。すると・・・。
「それなら1年生に
漆原と下山田が身を乗り出した。何とか1名でも見つけないと理事長の覚えが悪い。
「クラブ活動はやってるのか?」
「はい。IT研究部に」
「IT研究部? 何だねそれは?」
「昔、科学部と言ってたのですよ。科学部では今時生徒は集まらず、らしい名称にしたんです。でも顧問の篠山先生は生物の先生ですからね。ITといっても御門はコンピュータやAIに興味があるのに、田んぼとか沼とか、フィールドワークが多くて。いわゆるクラブ選択のミスマッチですね」
というわけで、御門由加里という少女に白羽の矢が立った。
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