第22話 バッティングの違い
「0対0だったらどうなるんだ?」
みずえの疑問はもっともだった。
「特別な取り決めはしてなかったなあ・・・」
と栞。
「普通で考えるなら、今度は男子部も含めてタイブレークってことに・・・」
みずえが言う。
「そりゃ拙いな。美悠紀がだいぶへばってる。決着を付けよう」
神谷が言い出した。確かに美悠紀は疲労の色が濃い。投球数はまだまだたいしたことはないが、初めての実戦なのだ。精神的なプレッシャーも大きい。
神谷はネクストバッターサークルへ向かう三井に声を掛けた。
「何で打てねえんだ?」
「大して速い球じゃない。バッティングセンターで散々打ってきた」
三井はそう答えて首を傾げた。
「あれならソフト部の山崎の方が速いんじゃねえか?」
山崎というのは現在のソフトボール部のエースピッチャーである。
「そうだな。特別な変化球があるわけじゃないし。美悠紀のチェンジアップのがレベチだろ」
「だが、2回バッターボックスに立って2人とも連続3振だ。どうなってる?」
三井と神谷がごそごそ話していると花蓮が急に割り込んできた。
「色々研究したんだけど・・・」
「研究?」
「そう。ソフトと野球の違い。いつかも言ったじゃない」
「何だっけ?」
神谷に促されて花蓮が解説を加えた。
「ソフトのピッチャーにマウンドはない。しかも絶対アンダースローでしょ。対して野球のピッチャーはマウンドの上から投げ下ろす感じ」
花蓮の言うことに三井も神谷も頷く。そう言えば前にも聞いた気がする。
花蓮はベンチに置いてあったノートと鉛筆を取った。
「だから、ソフトではこう」
花蓮はそう言って矢印と矢印を水平に衝突させる絵を描いた。
「しかもソフトはバッテリー間が近い。球が速いわけ。だから奈央さんも五月さんも速いスイングで水平に振り抜く」
「なるほど」
「これはバッティングセンターのマシンでも同じでしょ」
「確かに」
三井が頷く。
「でも、野球だと、こう」
言いながら花蓮は今度は斜め上からの矢印と水平の矢印を交差させた。
「いつものスイングでは当てるのも難儀。しかもあいつの球はそう速くない。すると更にボールはこうやって沈んでくる」
花蓮は矢印の先端から少し前で下向きの弧を書いた。
「余計打ち難いわけ」
バッターボックスに向かった百合子以外全員が花蓮の説明に聞き入っていた。
「どうすればいい?!」
神谷が花蓮を睨んで言った。
「私には技術的に難しいけど、奈央さんや五月さんなら・・・」
花蓮はボールの軌道を迎え撃つバットスイングを下向きの矢印で表現して見せた。
「ここ。ボールがお辞儀し始めるここを上から叩くように打つ」
すると栞が急に前に出てきた。
「ダウンスイングだな。ソフトはレベルスイングだ。水平にボールを迎え撃つ感じ。ダウンスイングは比較的容易に直線でボールを叩ける。言うのは簡単だが・・・」
だが、三井と五月の元ソフト部スラッガーは口元を
その時だった。観衆が大歓声を上げたのだ。
1番ドスサントス百合子が村木のボールをセンター前にはじき返した。女子部初のクリーンヒットだった。
「さすがだな」
三井と神谷はグラウンドへ出て行った。
「現代野球理論ではダウンスイングが絶対ではない。逆にゴロを打つのがダウンスイングでもないのです。所詮バットはしなったりしません。最短の直線でボールに届くことが大事です」
蓉子が言った。
まだまだバッティングについては練習の足りない女子部だ。だからこそ使えるグラウンドが欲しい。
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