第13話 ガイジン? 日本人?

 焼き上がった豚玉を4人はフーフー言いながら食べ始めた。

「これ、美味しいですね」

 妹の蓉子が笑顔を見せた。

「それで、本題だけど・・・」

 百合子の方から切り出した。

「うん」

栞と美悠紀が頷く。

「リトルリーグでさ、準優勝したんだけど」

「だってね。凄いな」

「そんなんじゃないんだよ・・・」

 百合子の顔がさっと曇った。

「何があったの?」

 美悠紀が尋ねる。すると百合子がおずおずと話しだした。

「プロ野球でさ、外人選手枠あるじゃない」

「助っ人外人だね」

「そう。ちょうどそんな扱いだった。あんまり外には出ていないけど、リトルリーグのチーム3回変わってるんだよ、俺」

「え?」

 栞も美悠紀も即座に反応することが出来なかった。どういうことだ? 3回チームを代わる?

「お姉ちゃん、万能選手だからね。二刀流どころか三刀流、四刀流なんです」

妹の蓉子が口を出した。

「お前は黙ってろ」

 即座に百合子が言った。

「でも・・・」

「黙ってろって。俺から話すよ、こいつらに話しを聞くつもりがあるなら」

百合子はそう言って挑むような目を向けてきた。

「聞かせてくれない?」

美悠紀が言うと、

「その前にもう一枚食うぞ! 腹が減った」

栞がスイレンオリジナルを注文する。

 スイレンオリジナルは店の名を冠したオリジナルお好み焼きだ。豚玉の他にじゃこと鰹節が入る。極めて日本的なお好み焼き。それをドスサントス姉妹と食べる。

「嫌気が差したのもそれが理由でさ。結局最後準優勝したチームなんて、前にいたチームに移籍金みたいの払って移ったんだぜ」

 百合子が告白すると、美悠紀が極端に嫌な顔をした。

「ひでえな。なんか物みたいに。そんなんじゃ面白くないだろ?」

 栞が尋ねた。

「いや。でも野球は楽しかった。その時はピッチャーで4番打ったんだけど、楽しかったよ。ただ、野球はやっぱりチームプレーじゃんか・・・」

「チームに愛着が湧かないね・・・」

美悠紀が寂しそうな声で言った。

「でも、それって違反とかにならないの?」

 栞がお好み焼きをひっくり返すのを失敗しながら尋ねる。

「俺にも詳しいことは分かんないんだけど、以前は1シーズン中は移籍禁止だったんだって。それが但書が付くようになって、事情があれば移籍可能になった。そうなりゃ、抜け道はいくらでもあるっしょ」

「なるほど〜。大人の事情でどうにでもなるか・・・」

 栞が唸りながら焼き上がったお好み焼きを配った。

「でも結局、高校になると女には野球やる環境がなくなっちゃうのさ。ソフトボール部に誘われたけど、今更ソフトボールに転向する気にはなれなかったよ」

 最後に百合子の言ったことは美悠紀の心に響いた。そうだよ、女だからダメって変じゃない・・・。

「あたしたちは女子硬式野球部を創って甲子園を目指す。いっしょにやろう」

 栞が決まりだとばかりに宣言した。だけど、百合子はこう言ったのだ。

「ひとつだけ条件がある」

栞が怪訝な表情をする。美悠紀は不安そうな顔をした。

「条件・・・?」

「ああ。妹の蓉子もいっしょに野球部に入れてくれ。それが条件だ」

「え?」

「蓉子は野球の経験も、いや他のどんな部活の経験もない。お帰りクラブだな。少々人見知りが過ぎて、なかなか友達ができないんだ。それにせっかく高校入ってもやりたいことが見つからないって・・・」

 突然の要求に栞と美悠紀は顔を見合わせた。そして互いに笑い合った。

「な、なんだよ。いきなり笑い出して。蓉子を、妹を馬鹿にすると許さないぞ」

 2人の態度に百合子が気色ばむ。

「ごめん、ごめん。そうじゃないんだ」

と栞。

「実はね、理事長との約束の日までもう幾らもなくて。9人揃えるってことになってたんだ。それがあなたに入って貰っても8人しかいなくて。もう一人捜すのがもう・・・」

 美悠紀が説明を加えた。

 こうしてドスサントス姉妹の入部が決まった。姉はリトルリーグの天才プレーヤーだが、妹は全くの野球素人。

 それがいきなり硬式野球だ。不安はあるが9人揃えることが先決だった。先ずは第一関門を突破である。

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