第2話 野球部を創ろう

「え? 野球部を作る?」

 翌日の放課後、食堂で2人は向き合っていた。

「どういうことなの?」

「だから、野球部創るんだよ」

 相変わらず美悠紀は分かっていない。栞と野球をやることには同意した。でも野球部を創るなんて・・・。

「女子硬式野球部だよ」

栞が答える。

「そんなこと出来ないよ」

「出来るって」

 栞はいつでも強気だ。決めたらどこまでも突っ走るタイプである。

 それに比較して美悠紀は引き摺ひ ずられるタイプ。悪く言えば主体性がない。すぐに流される。

「先ずは人数集めないと。やっぱり最低9人はいるよなあ」

と栞。

「だって、うちには野球部もうあるじゃない」

と反論する美悠紀。すると栞は嫌な顔を見せて、

「出ると負けの金食いクラブ」

と言い放った。

「でも、野球部は既にあるわけだし、もうひとつっていうのは・・・」

 美悠紀がグズグズ言うのを遮るように栞は続けた。

「別に2番目の野球部を創ろうって訳じゃないんだから。女子硬式野球部だからさ」

それで美悠紀が思い出したように言った。

「女子ならソフトボール部があるじゃない。去年全国大会出てるんだよね」

「美悠紀さあ、ソフトボールと野球は全然違うから。それにソフトボール部あたし大嫌いだし」

 栞が語気荒く言うと美悠紀はあることを思いだした。栞は5ヶ月前までソフトボール部にいたのだ。1年生ながら捕手のレギュラーを獲得、しかも5番を打っていた。

 そのソフトボール部を辞めた理由は聞いていなかった。大嫌いと言うからには余程のことがあったのだろう。

「よし、先ずは手近なところから行こうか・・・」

 栞がニヤリと笑った。

 その二日後、栞が美悠紀の待つ食堂に3人の少女を連れて現れた。

「栞、どうしたの?」

 慌てて立ち上がる美悠紀。

「一緒に来て」

栞はそう言うと食堂を出て行く。連れてきた3人も後に従った。

「ちょっと、栞。何なのよう」

 慌てて後を追う美悠紀。

 栞たちは例の河川敷にやって来た。

「美悠紀、投げてみて」

 栞は鞄の中からキャッチャーミットを取り出す。

「ほら。速く」

 美悠紀を急かすと栞はさっさと定位置に着く。ここ何日も美悠紀とのキャッチボールを続けている場所だ。

 それで美悠紀もカバンからグローブを取り出す。ただ、気が付いたように栞に声を上げた。

「私、制服だよお」

「構わないよ。あたしもだよ」

 栞は美悠紀の泣き言など無視して定位置にしゃがみ込む。

 仕方なく美悠紀は栞の位置から18.4メートルの印を付けた位置に着いた。

 慌てて栞に着いてきた少女たちが集まってくる。

「じゃ、いつも通りで」

 栞は美悠紀に声を掛けると、手にしたボールを投げて寄越した。

 初めてピッチャーとして栞に向かって投げてから、少しずつ美悠紀は投げ方を習った。体重移動に注意して、腕の振りに注意して。そして栞のキャッチャーミットに集中して。投げた。何球も何球も。

 美悠紀はボールをしっかり握り直すと、重心を落とす。右腕を大きく引いて、左足を踏み出した。

 長い腕が大きくしなって、オーバースローでボールが放たれた。

 ズバンッ!

 美悠紀の投げたボールが栞のミットに収まる。ストライクだ。栞は全くミットを動かすことなくボールを受けていた。

「凄い・・・」

 3人の少女たちは恐れの目でボールを見ている。

「今の・・・、130キロくらいは出てますよね」

 1人の少女が目を見開いて言った。

「そこまではないだろ。でも、もしマウンドの上からワインドアップで投げたら・・・。130キロいくかも」

 栞が3人に勝ち誇ったように言った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る