お告げ -其之弐-
その少女は、夢を見た。とても奇妙な夢だった。
少女は花畑のなかで、シロツメクサの花冠をつくっていた。すると、どこからかシャボン玉のようなおぼろげな光が、ふわふわと風に乗って飛んできた。少女が手を伸ばすと、彼女の小さな掌に収まろうとするように、それはゆっくりと降りてきた。だが彼女に触れることはなく、手の少し上をゆらゆらと浮遊し続けている。
純粋な少女は声を上げた。
「妖精さん! こんにちは!」
別に深い理由があるわけではなかった。だが少女は一目見てすぐに、その光が「妖精」だと確信していた。だってこんなに綺麗で可愛いんだから、妖精に決まってる。少女は繰り返し何度も呼びかけたが、「妖精」はその声に応える様子はなく、ただ一定のリズムでゆらゆらと揺れるだけだった。
でも、「妖精」さんはなにしに来たのかな? 一緒に遊びに来たんじゃないのかな? 疑問は抱いたが、すぐにまた「妖精」に手を伸ばして呼びかけようとする。
すると、ようやく光が手に触れかけたそのとき、不意に「妖精」は一段と眩い光を放った。少女は思わず顔を背ける。
はっとして「妖精」の方を見ると、段々と光が弱まっていき、その球体の姿が明らかになった。
それは、テニスボールほどの大きさの、人間の眼球だった。
「いやぁぁ!!」
少女は叫び声を上げて、咄嗟に「それ」を遠くに放り投げた。しかし「それ」は空中でぴたりと静止し、じりじりと少女の方に目線を飛ばす。
周囲の色彩が失われ、花畑は灰色に包まれる。眼球にどろりと垂れ下がった肉の塊からは、真っ赤な鮮血がひたり、ひたりと滴っている。
怯える少女に、「それ」はゆっくりと言葉を吐いた。
【――――汝、航空事故により死す――――】
***
少女は明くる日の朝、親に泣きついて震えた。何事かと心配した親が問いかけると、少女は夢で見たことを拙い言葉で必死に語った。
「こうくうじこ」の意味を少女は理解していなかったが、親から飛行機の事故のことだと教えられ、絶望したように金切り声を上げた。少女の家族はもうすぐ海外旅行に行こうとしていたところで、飛行機に乗る予定がまさに目の前にあったのだ。
ただの夢だから大丈夫だと宥める親に、少女は駄々をこね続けた。飛行機に乗ったらきっと死んでしまう、一生飛行機なんて乗るもんか、と。
少女の全力の反対に押し負け、数日後、ついに両親は海外旅行の予定をキャンセルすることを決めた。これほどまでに嫌がるのだから、無理に連れていっても却ってトラウマを生むかもしれない。代わりに国内旅行に行こう、と提案すると、少女は安堵してまた涙を流しながら何度も頷いた。
***
そして旅行へ出発する前日、少女は明日の朝一番で駅を立つ新幹線のチケットを眺めながら呟いた。
「もし、ほんとに一生飛行機に乗らなかったら、わたしはいつ死ぬんだろう?」
夢の中で自分の死因を予言した「それ」は、いったい何のために夢に現れたのだろうか。様々な疑問が頭に渦巻いて、少女はその夜、一向に眠ることができなかった。
<続>
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