第5話 しずれとの出会い


お姐さんたちの朝食の片付けを手伝い終えれば、しずれが私に手招きをしてくれる。


「ふゆは、せっかくだ。屋敷の中、案内するよ」

「でも、次はお洗濯が……」


「いいのよ、せっかくだから、案内してもらいなさいな」

ユズリハお姐さんに勧められて、私はしずれに屋敷の中を案内してもらうことになった。


屋敷の中は、どうしてか何処までも続いているように見え、終わりが何処なのかがハッキリしない。


「どこまで続いているんでしょうか」

「妖怪の屋敷だからな。たまに違う蜘蛛屋敷に繋がってることもあるぞ」

「それなら……戻って来られなくなるんじゃ……」

ふと、恐ろしい可能性に気が付く。


「いやいや、そう言った場所には、資格がなけりゃぁ辿り着けないよ。この屋敷なら俺の許可、違う蜘蛛屋敷なら、その屋敷の蜘蛛」

「しずれみたいな……?」

「そうそう。テレビでよく見るだろ?ジョロウグモとか、ツチグモとか……力の強い蜘蛛妖怪たちが暮らす屋敷も他にたくさんあるんだ」

「強い……恐い……?」

「怒らせるとな。でもふゆはなら、多分かわいがってもらえるから大丈夫」

そう言うと、しずれがぽふぽふと頭を撫でてくれる。


「妖怪ってのは義理堅い。蜘蛛だってそうだ。同胞を助けてくれたからな」

「それって……」

しずれと、初めて出会ったあの神社の……。

あの頃はまだ、私も小学生だった。


「でも私は、たいしたことはできなくて」

あの毒のような母娘から逃げるように迷い込んだ境内で、私には見えないはずの小さな蜘蛛の妖怪を見付けた。小さな……と言っても妖怪なので、抱っこしたらちょうどよさそうな大きさではあったが。


「それでも、ほんにんは喜んでたからな」

怪我をしていることに気が付き、ハンカチを結んであげた……ただそれだけしかできなかったのに……。しずれは私に同胞を助けてくれたと礼をいい、優しく頭を撫でてくれた。


「あのこは、元気ですか?」


「それなら、ここにいるが」

また、いつの間に付いて来ていたのか、足元のちび蜘蛛ちゃんたちのひとりを、しずれが抱き上げると、私に抱っこさせてくれた。


「さゆちゃん……?」

「ん」

さゆちゃんが嬉しそうにこくんと頷く。


「えっ!?でも、あの時は……蜘蛛の姿でっ」


「あの頃はそうだったな。だが今はヒト型もとれるようになった」


「そう、だったんだ。おっきくなってくれて、嬉しい」


「ん、しゅきっ!」

「私もだよ、さゆちゃん。また出会えて良かった」

さゆちゃんとあの日、神社の境内で出会えなかったら、私もしずれと出会うことがなかった。

そしてこうして今ここで、しずれの花嫁さんになることもなかったのだから。



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