第6話 蜘蛛妖怪たち


さゆちゃんとの再会を喜びあい、ちび蜘蛛ちゃんたちも一緒に訪れたのは、茶室である。


「ここはちび蜘蛛たちがよく集まってごろごろしてんだ」

しずれの言うとおり、茶室には既にちび蜘蛛ちゃんたちが集まっており、遊んだり、寝ていたり。

ほかのちび妖怪たちも混ざっているようだが。


「ほら、ふゆはも」

しずれに招かれ部屋に入れば、さゆちゃんが腕からひょいっと飛び降り、ほかのちび蜘蛛ちゃんたちとかけっこを始める。


みんな自由で、元気で、何だか微笑ましい。


「あと……あ、いた」

そしてしずれが、キョロキョロと辺りを見回すと、ちび蜘蛛ちゃんたちの中のひとりを抱き上げる。


稲穂色に茶メッシュの入った髪を持つ、茶色の髪のちび蜘蛛ちゃんである。


「この子はゆやだよ」

「ゆやちゃん」


「そうだよ、ふゆは。ゆやは昨日言った口から糸を吐く種類だ」

え……昨日言っていた、口から糸を吐ける蜘蛛!?

「ぬしさま?」

しかし、突然のことでゆやちゃんはがこてんと首を傾げる。


「糸を吐いてくれ、ゆや」


「???」

あ、完全にハテナを浮かべている。


「まぁ……糸を吐くのは獲物や、危機を感じた時のみだから……突然だとやはり見られないか」


「ご、ごめんなさい!私が無理を言ったから!」

そうだったんだ……!慌てて狼狽える。

しかし、次の瞬間。


つー……。


ゆやちゃんが口から糸を出してしずれの手につーっとつけていた。


「ん」


「あ、うん。ごくろう。菓子をやろう」


「ん」

こくんと頷くと、糸を回収しぴょいっとしずれの腕から降りたゆやちゃん。

しずれが袂から菓子の包みを取り出すと。


「ほら」

それを受け取り、喜んでにゃーちゃんやさゆちゃんたち、ちび蜘蛛たちの輪に戻って行った。


「ゆやちゃん、サービスしてくれたんですね!」


「あぁ、良かったじゃないか。多分、にゃーちゃんやさゆが懐いているからかもしれないな」

「そっか……ありがとう」

手を振れば、ちび蜘蛛たちがきゃっきゃと手を振っていた。


――――続いて。

屋敷の中の探険はまだまだ続く。


「ここは日当たりがいいから、蛇妖怪や猫妖怪に人気だ」

蛇妖怪や猫妖怪が日向ぼっこをする部屋。


「こっちは日があまり当たらないようになっているから、コウモリや夜行性の妖怪たちに人気」

昼間でも薄暗く、中からちびコウモリちゃんがお手々を振ってくれたので振り返した。


「それから宴用の広間とか、あっちは儀式用の広間」

本当に広々としていて、色々な部屋があるようだ。

そしてふと、琴の音色が聴こえてくる。


「あの……お琴……?」

「あぁ……多分椛姐さんだな。こっちだよ」

しずれが手招きする部屋に足を踏み入れれば、その中には琴を弾く美しい蜘蛛妖怪と、もうひとり、蜘蛛妖怪がいた。


私たちに気が付くと、琴を弾いていた蜘蛛妖怪が指を止め、顔をあげてくれる。


「まぁ、花嫁さん。いらっしゃい。私は蜘蛛女の椛と言います」

鮮やかな和服に身を包んだ美人の彼女は目尻に紅を添えたとても美しい姿で、茶髪に襟足が長めな髪型をしている。頭からは赤い2本の角が伸びており、オニグモであることが分かる。さらに瞳は銀で、優し気な表情を浮かべている。


「そうそ。でも椛姐さんは……蜘蛛女でいいのか……?一応、オスじゃ……」

え……オス!?

驚いて椛お姐さんを見れば、確かにほかのお姐さんたちに比べてすらりとしているが……着付けは女性のものである。


「あらあら……」

椛お姐さんが迫力のある笑みをしずれに向けた時、部屋にいたもうひとりの蜘蛛が口を開く。


灰緑の髪に銀の瞳を持つ青年の姿の蜘蛛妖怪。そして頭からは黒い角が2本生えている。


「ぬしよ、そう言うことには触れるでない」

「そうねぇ」

椛お姐さんもまた、にこにこと微笑む。


「ん……まぁ……そのな、こいつは簾と言い、椛姐さんとは……夫婦だ」

「よろしくねぇ」

穏やかで優しげな椛お姐さんにこくんと頷く。


「そしてぬしさま。余計なことは、言わないように」

「わ、分かったって……悪かったから……!」

しずれはぬしさまなのに、どうしてか蜘蛛女に弱いのは相変わらずのようで、ちょっと微笑ましくなってしまった。

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