第4話 蜘蛛屋敷の朝
夢を見た。
昔々の辛い日々。しかしその中で見付けた優しい思い出だ。
優しい記憶に包まれて瞼を開ければ、そこには見慣れぬ天井がある。
そう言えば……私、しずれの屋敷に来たのだった。そして夜はにゃーちゃんたちちび蜘蛛ちゃんたちと遊んで……いつの間にか寝てしまったようだ。
そして眼前にふわりと揺れる白いもふもふに、ハッとして隣を見れば、すやすやと寝息を立てる大蜘蛛の顔がある。
寝ると蜘蛛脚が出るものなのだろうか……?
少しだけ……触れてもかまわないだろうか。
そっと腕を伸ばし、ふわふわな脚に触れる。
もふり。
本当に……もふもふ……!
「……っ」
ゴクリ、と唾を飲む。
その時、するりとふわふわが逃げていき、同時に隣でむくりと身体を起こす影を見る。
「ん……ふゆは……?おはよう」
「……おはよう、しずれ」
少し名残惜しく思いつつも、やはり優しいその大蜘蛛が名を呼んでくれるのが嬉しい。
そしてしずれがじっと私の顔を見ると、再びもふもふな脚を差し出してくれた。
「気に入ったのか?」
「その……うん」
おずおずと頷けば、しずれがばさりと上に覆い被さり、抱き締めてきた。
「ひゃっ!?」
「うん、嫁がかわいい」
「か……かわ……っ」
常に比べられて来たから……私がそんな風に言われたことなんてない。
だから思わず顔が赤くなってしまいそうだ。
「あの……そろそろ」
そう、しずれに声を掛ければ。
「もう少し」
で……でも……頬が熱くなる。
しかし、その時だった。
「ぬししゃま、何してる?」
「にゃ?」
「起きないの?」
私たちをじーっと見つめているちび蜘蛛ちゃんたちに気が付いたのだ。そう……部屋にはちび蜘蛛ちゃんたちがいたのだ。いつの間に起きて……!?
「ちょ……しずれ、ちび蜘蛛ちゃんたちが……っ」
「少しくらいいいだろう……?」
「それはその……さすがに……っ」
しかしその時、すとんと襖が開く。
「朝よ、しずれ。言いたいこと、分かるわよね……?」
「姐さん……っ」
しずれは悔しそうに諦めて腕から解放してくれた。
※※※
屋敷の厨房では、朝ごはんの準備の真っ最中である。
「こちらの厨房には、男性もいるのですね」
実家では、家事は女の仕事と言われ、母屋で暮らせないのに押し付けられてきた。その上ヒメや後妻は家事をやらなかったから、思えば奇妙なルールである。
「そりゃぁな。何もしなかったら追い出される」
私がおネギを刻む隣で味噌汁の鍋を混ぜるのは、屋敷の長であるはずのしずれである。
「蜘蛛は女の方が強いからなぁ」
確かに、お姐さんたちは強そうである。
「そこ、運んで」
「おうよ、姐さん」
今もきびきびと男妖怪に指示したり、できた料理を運んだりと大忙しだ。
「みなさん蜘蛛ですか?」
厨房と言う場所だからか、蜘蛛脚はみなさんしまっているようだ。
「蜘蛛もいるが……うちに居候したり、唐突に泊まったりする妖怪もいるからな。たまにコウモリとか狐とか、蛇とか、いろいろいる」
確かに蛇さんも私と一緒に来てくれたし……うーん、私には妖怪の特徴がなくてはよく分からないのだけど。
しかしコウモリのような耳を持つ男性がちらほらといることに気が付く。それと……狐耳も見付けてしまった。
「賑やかですね」
「そうそ。昨日は初めてだったからふたりで……だったが、うちの食事はこう言う賑やかなのが多いな。……いや、昨日も姐さんたちが乱入してきたが」
「そう言えば……」
そうだった。昨日も今日も、とても賑やかで……。
朝食の準備を終えれば、屋敷のみんなで賑やかな朝食となった。
ちび蜘蛛ちゃんたちには、積んだおにぎりを出してあげて、もひもひと食べている。
あれ……一緒に子妖怪のコウモリちゃんとこぎつねちゃんも混ざっていることに気が付き、何だか微笑ましくなる。
みな優しく、賑やかな食事。
初めてのことばかりだが、この場所はとても心地よいと感じたのだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます