間章1 都市伝説「ITube」

 二〇二二年現在、UTubeの飛躍は目を見張るものがある。それは投下される広告費の数もそうだし、ネットニュースのトピックからもうかがえる。今の時代はUTube>テレビなのだ。もちろん、テレビも人気ではあるが。

 さて、テレビでは不定期ではあるものの心霊特番が組まれることがある。まじであった怖い話、通称「まじ怖」や「やばすぎ都市伝説」などが有名だ。季節は問わないが、夏に放送されることが多い。

 ではここでUTubeに立ち返ってみる。UTubeでは、上述したテレビ番組の裏側を映し出す「裏番組」が存在する。テレビでは放送できなかった部分や、放送した内容の補足をしたりする。もちろんUTubeの裏番組から初めて視聴するパターンもあるため、番組の冒頭、中盤、エンディングなどで定期的にテレビ番組本編の見逃し視聴をおすすめするアナウンスが流れる。そうして地上波のサブスクサービスに誘導して、視聴者を確保するのだ。やはりUTube強い。

 ところがそんなUTubeには、妙な噂がまことしやかにささやかれている。とは言うものの、現代において情報の拡散は極めて素早く、オカルトに興味がない人にも届いてしまうことがある。

「ITube」もその一つだ。

 いつ頃からその存在が知れ渡るようになったかは不明だ。ある人は十年前から存在していたと言うし、ある人はここ最近だとも言う。何ならITubeが先発で、何らかの事象によってUTubeが取って代わり、実はITubeこそが本家である。つまりこれはUTube運営会社Coogleの陰謀だ、という陰謀説まで存在する。

 いろんな情報があふれていてどれが正しくてどれが偽物なのか、そもそもすべて偽物でそんなものは存在しないのではないか、とにかくもうしっちゃかめっちゃかな状態である。

 そんなだから、とある日、Coogleが正式に声明を出した。

 ――昨今ささやかれている謎のプラットフォームに関して、我々は一切関与しておりません。

 たったこれだけの声明を出しただけで、これ以降Coogleからは何の発表もない。これでひと段落するかと思いきや、今度はアメリカ政府が企んでいる、国家機密規模の陰謀なのではないかという話まで出てきて、世間は少し騒がしくなった。

 しかし、収束は意外にも早かった。

 誰一人として「ITube」なるものを見つけられなかったからだ。

 心霊写真が撮れました! UFOと交信できます、今からライブします! というように、それが嘘でもちょっと近いような現象を写真なり映像に収めることができれば多少なりとも盛り上がったのだが、全世界誰一人として「ITube」の文字を記録することができなかったのだ。

 もちろん映像関係に精通した人物や、何なら企業のプロモーションとしてITubeサイトを独自に作り上げて話題をかっさらうことは何度かあったし、それこそオカルト系UTuberも独自で調査する動画を上げたりしていた。でも、その程度なのだ。(ちなみに、俺はオカルトの類はあんまり詳しくないのでその程度の知識止まりだが、ITubeをネタにした人物や企業は何らかの不幸によりその職を離脱、倒産せざるをえない状況に追い込まれていたそうだ)

 そういうわけで、一度盛り上がりかけた「ITube」都市伝説は、みるみるうちに収束していき、いつの間にか誰も扱わなくなってしまった。

 ところで、そもそもその「ITube」とは一体何なのか。結局誰一人として見つけられていないのだから俺が知る由もないのだが、何かのサイトで偶然目にした記事によると、

「UTubeの裏世界」「UTubeの中に存在する別空間」「UTuberだけが入れる異空間」ということらしい。共通しているのは、UTubeである。それもそうだ、ITubeなんていう名前はあからさまにUTubeに影響を受けているとしか思えない。

 また、別の情報源からは「一度入ったら二度と出られない」「現実世界では死んだ人扱いになる」など、やはりこれも都市伝説らしい内容のものだった。

 つなぎ合わせると、ITubeとは「UTubeの中に存在する、一度入ったら出られない異空間」ということになる。

 UTube歴十二年。一度足りとてITubeなんてものを見たことはない。

 そもそもがあり得ない話なのだが、もしも日本国内にとどまらず、世界レベルでの登録者数や再生回数、視聴時間などをランキングして、その上位層数人にしか知らされていない現実の話だと考えてみる。そうするとこれも当たり前に、俺みたいな登録者五〇〇人レベルの日本人UTuberにその存在が知らされるわけがないのだ。

 ITubeはただの都市伝説なのだ。


 あ、登録者が一人減っている。だるすぎ。

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