異世界召喚

 魔族の存在。

 並びに、魔王の存在。

 それが人類社会を初めて確固たる脅威として知ったのは迷宮都市アネッロでの一件だった。

 しかし、この時代の伝達速度はかなり遅く、その脅威が知れ渡ったのはかなり後のことで、ティエラが魔王の手で攫われたその時より本格的に始まった魔族による侵攻作戦に人類はかなり後手の対応を取らされた。

 最初の攻撃だけで人類は大きな打撃を受け、それに対抗しようと人類社会もすべての国家間で協力体制を構築するなどの対策を取ったが、それでも魔族たちを前に劣勢を強いられていた。

 そんな中で、希望の光として見出したのが、泡沫の小さな宗教組織であるシャリテ教の方に残されていた勇者召喚の儀式である。

 かつて、魔王を封印したとされる勇者も異世界より召喚した者だった。

 だからこそ、今回も異世界からの召喚に頼ろうしたのだ。

 多大なエネルギーを必要とし、平時であれば到底出来そうにない異世界召喚の儀を行えるだけの燃料。光となって消えていったと思われた邪神の遺体で唯一残されていた高濃度のエネルギー結晶体があったことも好都合だった。


「異世界召喚は成功しました」


 そうして、行われた異世界召喚の儀は成功だった。


「しかし……召喚された者たちが少し、問題でした」


「……なんだ?魔王に、届きそうにないのか?実力が足りなかったのか?」


「いえ、そういうことはではないのですが……彼らはずいぶんと平和ボケした世界。それも、魔法や魔力などのない世界出身だったらしく、この世界で魔王と戦ってもらえるような人材へと成長するまでにはかなり時間がかかりそうです」


「……成長、するのか?それは」


「えぇ、ポテンシャルだけで言えば、正直に言って、群を抜いています。インターリなどを始めとする……現在、魔王軍と真正面から戦っている彼らよりもそのポテンシャル面で言えば高いです。鍛えれば、確かに」


「なるほど……最悪の手を取ることも検討するか」


「……ですね」


 ただ、完全に望んでいた形というわけでもなかった。

 現状を一発で解決してくれるような、そんな手立てではなかった。


「報告がありますっ!」


「んっ?どうかしました?」


「異世界よりやってきた勇者の一人がもう、訓練を開始したようです」


 しかし、そう結論づけるのはまだ、早いようでありそうだが。

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