勇者召喚
当矢がなくなったその事実が玲香に与えた影響は大きかった。
愛を知らない当矢に。
他人からの愛がわからない当矢に。
ただ一人、一方的に他者を愛し続ける当矢を悪魔たちから解放し、これから愛を教えてあげようとしていた。
でも、それよりも前に当矢がいなくなってしまった。
「あー、今日は、卒業式であるわけだが……」
玲香が当矢の死を受けて落ち込む中、その他のクラスメートたちもその死に打ちひしがれていた。
その状況での高校卒業式はお通やのような雰囲気で、そのクラスの前に立つ担任の先生もやりにくそうな表情を見せる中。
「えっ!?な、何っ!?」
「……こ、これは?」
いきなりクラスの床に光り輝く魔法陣が展開され始め、クラスの中に動揺が広がっていく。
「きゃぁぁぁぁぁあああああああああ!?」
そのまま、その光が最高潮に高まり、クラスの中にいた者たちすべての視界を奪ってしまう───。
「えっ……?」
───そして、光に潰された視界が再びその働きを取り戻し、周りを確認できるようになった中、玲香たちが辺りを見渡せば、そこは先ほどまでいた教室のなかではなく、まったくもって見たないような、キリスト教の大聖堂のようなところだった。
「勇者だ!勇者様の召喚に成功したぞ!」
「おぉ!復活した魔王に対抗するための、唯一の術だっ!」
「また、また勇者様が……我らの元に」
そして、そこには神官服を着た多くの者たちが感激の声をあげていた。
「こ、これって……異世界召喚?」
そのような状況の中で、クラスメートの一人がぼそりと言葉を漏らす。
異世界召喚。
その単語は既に、一部のオタクたちが知るマイナーな単語ではなくなっていた。
「えっ!?うそ、マジでっ!?」
「マジかよっ!すげぇー」
「こ、ここは何処なの……?」
「い、異世界!?本気で言っているの!?」
「み、みんな!落ち着くんだ!まずは向こう側の話を……」
現状を前に、興奮する者、不安がる者、収めようとする者。
多くの者たちが三者三様の反応を見せる中で、玲香と言えば。
「……当矢の匂いがする」
何となくの、本当に何となくの感覚で。
この世界に当矢がいることを察した玲香は笑みを浮かべながら、沈んでいた心を再び滾らせるのだった。
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