当矢
櫛灘当矢の幼馴染である門崎玲香。
彼女が当矢に会った日、彼の印象として思ったのは人じゃない、であった。
『初めまして』
当矢の家庭状況は最悪だった。
父親も、母親も、どちらとも街全体に噂が広がるようなクズであり、その噂に違えぬ横暴さでその両親は当矢へと虐待を働いていた。
初めて会った時の当矢は全身青あざだらけで、幾つも骨が折れていた。
それなのに、その見た目で、一切痛そうな素振りなど見せずにニコニコとしていた彼を、玲香は何処か人とは違う存在として見てしまっていた。
親からの愛情を受けず、常に暴力のみを受ける少年。
それでも、彼は常に優しさを伴っていた。それが、何処までも不気味だったのだ。
『何で、そんなに優しくできるの?』
『えっ?これくらい普通じゃないかな?』
両親が家を空けがちで、いつも一人でいることの多かった玲香にも、毎日ご飯を作ってくれたり、何処からか持ってきたお金で遊びにつれて行ってくれたり。
玲香に、だけじゃない。多くの人に愛情を分け与える当矢に何故、人に優しく出来るのか。
そう問うても、返ってくるのは非常にシンプルなもの。
『みんな、幸せだったらいいよね』
全身に、多くのあざをつけ、常に痛々しい相貌を見せていた当矢に、玲香は何を思えばいいか。
ただ、ずっと自分に寄り添ってくれていた当矢に、玲香がとある一つの感情を抱き始めるのは至極当然のことで……。
「えっ……?」
時は流れて高校三年生。
当矢が未だに虐待は受け続け、株やFXで増やしたお金でもって、両親を養い続けている中。
「当矢が事故で亡くなった?」
高校の卒業式。
これから、大学生になろうという年齢になって、当矢が事故で亡くなった……そんな、一報が流れた。
「……せっかく、私が両親を殺して解放してあげたいのに」
そして、それは、玲香が当矢を解放するために自分の手も染めず、彼の両親を殺したのとほぼ同時期であった。
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