第八章 モブと幼馴染

幼馴染

 櫛灘当矢。

 零羽高校に通う高校三年生。

 地味めでパッとしない見た目

 高身長であるわけでも、筋肉質であるわけでもない。


「当矢くん、めっちゃいいよね……普通に付き合いたい」


「全部出来るもんね?勉強も運動も」


「そうそう」


 ただ、文武両道。

 学年模試は常に一位で、運動神経においてもかなり良く、帰宅部だというのに体育祭や普通の体育の授業ではありとあらゆる種目で運動部を相手に無双。

 

「それに、あの時はすごかったよねっ」


「あぁ……あの時ね。あれは、みんな惚れたよね」


 その上、当矢はとある一件で絶大なインパクトを見せた。

 以前、学校内にナイフを持った不審者が侵入してきたことがあった。その存在を前に、担任の先生までパニックとなる中で、当矢だけが一切動じず、ナイフを持った大の大人を相手に徒手空拳で制圧してみせたことがあったのだ。

 それは、学校中に多くの衝撃を与えた。

 見た目は弱そうなショタ。

 されど、文武両道の万能で、いざという時に絶大の強さを見せるショタ。

 そのギャップは多くの者を沼へと引きずり込んだ。


「それに、性格も抜群にいいもんね」


「常に柔らかい笑みを浮かべてて、優しいし」


「これで見た目が圧倒的だったら毎日誰かから告白されていそうだよね。道行く人すべてを惚れさせそう」


 更に言うなれば、その性格面も抜群だった。

 常に優しく、常に穏やか。

 それもまた、魅力的だった。


「いや、でも普通にカッコよくない?」


「いや、可愛い」 


 また、彼の見た目は地味ではあるが、磨けば光りそうなくらいに、その素材は悪いものでもなかった。


「あー、私、本気で告白しちゃおうかな?……結構、ちゃんと好きなんだよね」


 そんな少年に、告白しようとする女の子がいても何らおかしくないことだ。


「貴方なんかが当矢と付き合えるわけないじゃない」


 ただ、そんな女の子の前には常に一人の少女が立ちふさがった。


「……貴方、幼馴染だからって調子乗らないでよっ!」


 その少女は、門崎涼香。

 櫛灘当矢の幼馴染である少女だ。


「それはね、こっちのセリフなのよ」


 ……。

 …………。

 当矢には闇がある。迂闊には触れられない闇が……それは、多くの者たちの語り草になっていた。

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