名前

 僕が普通ではない。

 そう言われて、ちょっとあまり強くも言い返せなかった。

 前世からも、そんなことを周りに言われたりしたこともあったし……自分がちょっと、ズレている自覚もあった。


「そこら辺の、君についての話もしていこう」


 そんな僕を前にして、魔王が言葉を告げる。


「君は少し特殊でね」


「……」


 それは、肉体的なのか、精神的なものなのか、もうわからなくなってきたな。


「私はね、ずっと、ずっと君だけを待ち続けていたんだよ。遥か昔、それこそ、あの勇者の手によって、一度……私がこの身を封印されてからもね。だけど、何とか間に合った。いや、君が間に合わせてくれたと言っていい。本当に、すべてが君のおかげで。君だけを待ち続けていて良かったよ」


「……」


 それは、ちょっとキモイ。

 魔王から待ち続けていたと言われても、ちょっと怖いとしか言えない。

 それに、中々無視することの出来ない重要事項ばかり口にしているし……いちいち、発言の一つ一つが怖いんだよ。


「なぁ?ティエラ───」


 そんなことを考える僕を無視して、魔王はその言葉を続ける。


「君、前世の記憶があるだろう?」


「……はっ?」


 そして、その次に魔王が告げたのはありえない。

 ありえてはならない言葉だった。


「そう驚かないでくれよ、櫛灘当矢くん」


 驚愕で固まる僕に対して、続けて魔王は前世の自分の名前まで、口に出してくる。


「なんで、お前が……っ!」


 ありえない。

 何で、前世の名前をこの魔王が、知っているというのか……こいつは、いや、この世界は一体っ!?


「ふふっ、君が思っているほど、この世界は大層なものじゃないから、まず、安心していいとも。なんてこともない、つまらない、些細な話だ」


 驚愕の表情をもはや隠すことも出来ず、ありありと表情に浮かべてしまっている僕の前で、魔王は少し笑みを浮かべた後、そのまま言葉を続ける。


「……ッ」


 だけど、その一言ではい、そうですかっ!と頷けるわけがないだろうっ!

 一体……っ!


「少し、移動しようか。この世界について、少し、見てみようじゃないか。私の目的と共にね」


 何処までもついていけず、何処までも驚愕し続けている僕。

 その前で魔王は言葉を続け、今度は魔力と共に両手を叩いた───。

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