項羽再び

 ローアロス魔帝国。

 せっかくなのだからと、そこを満喫することにした僕は今。


「うーん、思ったよりも美味しい」


「……凄いですね、その見た目。私も正直に言って避けてしまうのですが」


「こういう現地のものを食べるのも乙なんだよ」


 露店で買った食べ物に舌鼓を打っていた。

 今、食べているのはこの孤島の地下に生息域を追っている一匹で5m以上の体を持つ巨大なワーム。その肉を焼いてそのまま串焼きにしたものだった。

 見た目のインパクトは凄いが、クリーミーな味わいで非常に美味しかった。あまり癖もない。味は。


「そうですか」

 

 ワームをモリモリ食べている僕を見て、若干引いているような視線を向けてくるコンフに若干の不満を抱きながら、串焼きと共に街の中を進んでいく。

 そんな中で。


「おーっ!ティエラではないかっ!」


 ここ、魔族の国であるローアロス魔帝国で……自分の、名前が呼ばれる。


「……っ!?」


 僕は人間だ。

 それで、このローアロス魔帝国内において、己の名前が呼ばれる。それは間違いない異常事態だ。

 僕は一気に自分の中の警戒レベルを引き上げながら、己の視線を声のした方に向ける。


「よぉ、久しぶりであるな!」


 そこにいた、その人物。

 それは僕も良く、知ったる人物だった。


「項羽……ッ!?」


 かつて、僕と戦った魔武廟十臣の一人、項羽であった。


「な、何でお前がここにっ!?」


 その姿を見た瞬間、僕は驚愕の言葉を口にする。


「それはこちらのセリフであろう?」


 そんな僕に対して、項羽の方は実に冷静で、落ち着きの払った返答を返してくる。


「……確かに」


 ここは魔帝国。

 しかも、魔王城の麾下の街だ。

 そりゃ、魔武廟十臣の一人である項羽だっているか……普通に考えると。


「おぉ!そんなことよりもだっ!」


「……?」


「久しぶりに会ったのであるのだ!手合うではないかっ!」


「……ちょっ、まっ!?」


 僕は項羽の手で一気に体を掴まれ、そのまま強引に持ち上げられる。

 項羽の動きは早く、僕はまるで回避できなかった。


「項羽様。余り手荒な真似は」


 そんな中で、自分の隣にいたコンフが声を上げてくれる。


「わかっておるわい!この餓鬼とて、しかと受け身を取れるように構えておる!我が認めたティエラを舐めるでないわっ!」


 一蹴された。


「……ッ!」


「いやっ、放せやぁぁぁぁぁあああああああああああああああ!」


 でも、僕は一蹴されたくないよ?ふざけるなと言いたい。

 僕はジタバタと項羽の手で暴れながら、だけど何も出来ず、そのままドナドナと彼に運ばれていくのだった。

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