心配
魔王だ。
そう、名乗られた僕は困惑する……それが、致命的だった。
「ほらっ」
「……ッ?!」
僕は目の前にいる魔王から押され、そのままベッドの方へと戻される。
「……ッ!」
ここまで来れば、僕も動き出せる。
迷いなく魔剣グリムを右手で握り、そのままベッドから飛び出して、魔王へと斬りかかろうとする。
「おっと」
だが、それよりも魔王が動き出す方がはるかに早かった。
魔剣グリムを握っている僕の手は自分の上に跨る魔王の腕に捕まれて、封じ込まれる。
魔王は僕よりもはるかに体がデカい。
実に軽く、押さえつけられてしまう。
「そう焦るな。お前、自分の体がどういった状況かわかっているのか?んっ?」
ここまで、魔王に接近されている状態だと迂闊に動けない。
今の状況は最悪に近かった。
「まったく……脳のリソースのすべてを自分の支配化に置き、内臓等を無意識下に動かしている部分までも処理能力に割くなど常人がやることではないぞ。あまりにも無茶が過ぎる。しかも、その上で、未だそれによる傷が回復しきっていないうえで回復魔法を止め、大してうまくもない奴の回復魔法を受けたのだ。もう体がこれ以上ないほどにボロボロ。見ていて実に痛々しい。本当に、今もただ呼吸するだけで泣きそうになるほど痛いはずだというのに。よくも我慢できるものだ。そもそもとして、己が血をまき散らすことを前提として戦略を立てていること自体も驚異的であるわけだが。いくら回復魔法で治るからと言って、痛みがないわけではあるまい。お前のその意思の強さ、そして、それを迷いなく実行できる胆力は凄まじいが、自分を大事にすることも忘れずにな?」
それに、今、目の前にいる魔王……完全に、復活しているのか?
感じる力は、あの時に戦った魔王の時とは比べ物にならなかった。
「それに、その上で神をその身に降ろしたのだ。その負担は想像を絶するものであろう。元、君は自分の体をいたわるべきだな」
神を降ろす……クソ、魔王は何かを知っている側なのか。
どんどん、状況は悪化していないか?これ、僕が一人でどうこう出来るような状況じゃなくなっているようなぁ。
「僕を、どうするつもりだ……?」
「私はしばし、気持ちよく眠っていてほしいだけだとも。回復魔法で無理やりに治すのではなく、な」
「ふざっ───ぐぬっ」
睡眠、導入魔法っ!?……レジストできなぁっ。
「おやすみ。ティエラ」
「クソ、がぁ……っ」
魔王を目の前にして、僕はあっさりと意識を手放してしまうのだった。
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