魔王
邪神が殺された。
一人の少年の手で。
「「「……」」」
その事実を、イミタシオン教はどう受けとめればよいのだろうか。
しかも、その少年のオッドアイも、本来の黒髪も、主の言い伝え通りであり───何よりも。
「……こ、これは」
エルピスは、ただただ目の前の事実に震えていた。
「ティエラっ!」
「ティエラ様っ!」
だが、そんな中で。
インターリたちも目の前の圧倒劇を前にして呆然としていた中で、シオンとレトンは共に、競い合うような形で一目散にティエラの方へと近づいていた。
「……ふぁ」
「「……ッ!?」」
そして、その速度はティエラが地面へと倒れ伏したことから更に上がっていく。
倒れ伏してしまったティエラを介抱しようと、シオンにレトンが彼の元にたどり着く───だが、それよりも前に。
「はっはっはっはっはっ!」
一つの人影が、高笑いと共にティエラの前へと現れる。
「遅いな。彼の前には我が立つ方が早かったぞ?」
血のような赤き瞳に、一切の血の色を見せぬ白き肌。
頭皮は黒きに覆われ、それより伸びるのは二本の禍々しい角。
そして、その背中は黒い翼に覆われている───そんな大男。
「我、ここに完全復活だ」
魔王が今、そこに立っていた。
「……あ、貴方はっ!?」
「な、何故っ!?」
かつて、死闘を尽くした魔王の存在を前に、シオンとレトンは共に足を止めて驚愕で目を見開く。
魔王を前にして、流石の二人であっても無策で突っ込むような愚かな真似は見せなかった。
「嘘だろっ!?」
「なんでっ!?」
「マジかよっ!?」
すぐさま戦闘態勢に入り、ティエラのことを救い出せるように動き出したシオンとレトンがいる中で、ここまで呆けていたインターリたちも慌てて戦闘態勢へと入っていく。
そんな彼らの全員に等しくして、その額から焦りの汗が流れている。
前に獅子奮迅の活躍を見せたティエラは気絶している。
状況は最悪に近かった。
「悪いが、こやつは貰っていくぞ?」
そんな中で、魔王は迷うことなく戦うのではなく、気絶しているティエラの体を掴み上げる。
「「待てっ!!!」」
それを見たシオンとレトンの反応は実に早かった。
魔王の方へと躊躇なく突っ込み、ティエラを奪い返そうと迫っていく。
自分がどうなろうと───ティエラだけは。
「さらばだっ」
だが、その手は空を切る。
二人の手がティエラへと届くよりも前に、魔王の体が忽然と消えてしまったのだ。
「……て、ティエラ」
朝焼けのように赤く淡く、そして、黄金のような輝きを伴っていたティエラはこの場より消えた。
朝はまだ、来ない。
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