対邪神
実は、ちょっとだけ邪神と戦わなくても済むかな?という期待もあったのだ。
別に僕は邪神がどういった存在かを知らないし、友好的な存在である可能性だってある。自分に戦う理由はなく、穏便に済むのであればそれが一番であると心の底から思っている。
『ォォォォォオオオオオオオオオオオオオオオオ』
ただ、向こうから攻撃を仕掛けられてしまえば、そんな淡い期待もご破算だ。
「ちぃ……っ!」
殺意を持たず、戦闘を避ける気満々だった僕は自分の元へと振り下ろされる触手を避けながら舌打ちを一つ。
邪神の振るう触手は僕への強い殺意がこもっていたし、地面に叩きつけられた触手は確実にその地面を大きく削った。
僕にしか見えない邪神は幻でもなんでもなく、実際の現実世界へと干渉してくる実存する存在だった。
「……何か、いるんですの?」
何もしていないのに大きくヒビの入るこの地下空間の地面を見て、目を見開いているシオンを初めとする多くの人の反応を見れば嫌というほどにわかる。
「まぁ、だよ……ねぇっ!」
全部僕の妄想だとか、触手が勝手に暴走しているだけとか。
都合のいいことを色々と考えてみたけど、結局のところそんなに世界はうまく行かないよね───。
『ォォォォォォオオオオオオオオオオオオ』
どんどんと遅くなっていく世界の中、人体の限界を超えて加速していく僕の体でもって、邪神の体より伸びる非常に早く、鋭い触手のすべてを避けながら、邪神へと迫っていく。
「ハァァァァァァッ!」
───だけど、こんな風に現実逃避してみたのも許して欲しい。
「……かてぇっ!」
何て言ったって、まるで……勝てる気がしないのだから。
『ォォォォォォオオオオオオオオオオオ』
邪神の前に立ち、その体へと魔剣グリムを全力で振り抜いた僕の一刀はだがしかし、その皮膚の薄皮の一枚も斬ることさえ出来なかった。
「がふっ!?」
魔剣グリムを振り抜いた僕の態勢は最悪だ。
すぐさま邪神より振るわれる触手など避けられるはずもなく、僕は体を吹き飛ばしながら、地面へと転がっていく。
「て、ティエラっ!?」
「あぁぁぁぁぁ」
触手を避けられはしなかった。
それでも、僕はしっかりと魔剣グリムを触手に合わせ、それを斬り裂いて無効化しようとしたのだ。
それでも、斬れなかった。
「全部のレベルを上げてこないでよ……っ!」
邪神の体より伸びる数本の触手は、その数がなくなった代わりに、一本一本の性能がこれ以上ないほどに向上していた。
前までのように、自分へと振るわれる触手を剣で斬り裂いて無効化するなんてことは出来そうになかった。
「……理不尽だ」
体の八割を消し飛ばされ、それでもすぐに体を再生させた僕は言葉を吐き捨てる。
ここまで強いとか聞いていない。
『ォォォォォォオオオオオオオオオオオオ』
体を再生させた僕へと再び、触手が振るわれ、自分の体がポップコーンのようにはじけ飛んでいく。
「これなら……っ!」
そんな中で、僕は邪神の体に最も近いところに飛んだ己の肉片から体を再生。
地面へと足をつけ、一気に加速。
己の足を吹き飛ばしながら、地面を蹴り、弾丸のように邪神へと迫っていく。
「凝鈷」
この場に散ったすべての血を、魔剣グリムへと。
血に魔力を流し、魔法を。
求めたのはただひとえに貫通力。
「穿血牙突ッ!」
雷のように。
血を紅き雷へと変え、すべてを貫かんと突き進んでいった僕は自分の中で一点突破の最高火力たる刺突を邪神へとぶつける。
「……ぐぬっ」
だが。
「……はは」
それでも、僕の魔剣グリムは邪神の薄皮を一枚、貫くだけだった。
『ォォォォォォオオオオオオオオオオオオッ!!!』
そして、邪神の出力もあがる。
邪神の体が一回り大きくなり、凶悪性があがり、触手は、巨大なで異様な手へと変わる。
千手観音。
邪神の体は、それだと勘違いしてしまいそうな姿へと変貌していっていた。
「もしかして、これがティエラが戦っていた?」
「な、何ですか……そいつはっ!?」
「……ぁ、ぁぁぁ……」
「マジかよ」
「おぇっ、えぐっ……コポ」
「……」
みんなにも見えたのだろうか?邪神の姿が。
『───』
そんなことを考える僕は、まるでゴミを払うかのように邪神の数多ある腕の一つで叩かれる。
「ごふっ……あぐっ、おぇぇぇぇぇぇ」
そして、それを食らった僕は思いっきり吹き飛ばされて地面を転がると共に、口から潰されて液体となった己の臓物を逆流させて吐き出していく。
「あぁぁぁぁぁぁぁぁ……はぁー」
それでも、再生魔法は健在だ。
すぐに僕の体は治り、流された血は血液魔法の為に使われる。
でも、なんだ?
寝そべり、立ち上がることさえしなくなった僕は仰ぐ。
「……」
天を仰ぐ。
無理だと。
「……はっ?」
そして、気づく。
上空で何もせず、ただ空を眺めていた一つ目の、天使のような怪物が今。
地下を、僕のことを見ていると……。
───ゴーン、ゴーン、ゴーン。
鐘が鳴る。
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