神殿
僕が振るった魔剣グリム。
それに吹きとばされる邪神はその体を後方へと下がらされる。
邪神の体は更に地下へと沈み、そして、この場一体の地盤が陥没する。
邪神が落ち、街が落ちる。
「こんな広い空間が……?」
そして、それで見えてきたのは地下にあった巨大な空間だ。
巨大な邪神が落ち、街が落ち、地面が落ちた。
それでもなお、全然埋まることのない巨大な地下空間を前にする僕は目を見開きながら、地面へとしっかり着地する。
「ふぅ……」
そこで、僕は一度、無茶を辞める。
脳の支配を手放し、しっかりと脳が本来の機能を行えるように。
「んっ……」
そして、ぐちゃぐちゃになっている自分の体を回復魔法で強引に正常な状態へと塗り替えていく。
「……お前一人で良かったじゃないか」
「何だココっ!?すげぇなっ!」
僕が血を噴き出しながら体を治していた中、インターリとジャーダも巨大な地下空間へと降りてくる
「ティエラっ!大丈夫ですの!?」
「ティエラ様っ!大丈夫ですか!?」
「……こ、ここは」
そして、その後に続いてシオンたちもやってくる。
「……エルピスさん」
そんな中で、僕は何か、知っていそうな表情を浮かべているエルピスさんの方へと近づいていく。
「ここが、何処なのか、知っているのですか?」
「……少し、待ってくれないでしょうか?」
「そんな猶予はないと思いますね」
僕はちらりと、体を震わせている邪神の方に視線を向ける。
何時、動き出してもおかしくない。
「情報であれば、もはや何でもいいんですよ。少しでも、現状を知る必要があります。そうでもなければ、現状を好転させられません」
「……私も、ここの存在は知りません。そして、それはイミタシオン教全体もそうでしょう。私は、結構皆さんが思われているよりもイミタシオン教の中心にいるんですよ。その上で、ここは私のような一部の信徒のみが閲覧することが許されている……主の言葉が残されている手記。未だ解読中のそこに、書かれていた空間と、ここが非常にマッチします」
「……」
この地下空間。
ここには数多くの装飾が施されている。ここが神殿だと言われてもそこまで違和感がないようなところだ。
「ただ、私の持っている情報はそれまでです……ここが、どういった場所なのかもわからないのです。私から言えるのはここが主の残した手記にあるところそのものだということだけです。
「……なるほど」
話が大きくなっただけですかね?これは。
「……どうしましょうか。これ、神話の世界に片足を突っ込んでいませんか?」
イミタシオン教に残されている神が書いた手記にある空間。
目の前で蠢いている邪神。
今も、空の上で何もせずに滞空している天使のような見た目を持つ怪物。
そのすべてがゲームに出てきていない要素だ……魔王は一体、どこに行ったんだよ。
「ここまで、話が大きくなるとは……」
「そう、ですね……私たちもここまでの事態になるとは想定していませんでした」
「あぁ、そうでした。一つ、聞きたいことがあります」
「何でしょう?」
「エルピスさん……いや、この場にいる全員はあそこに邪神と思われる一つ目の怪物が見えていますか?」
僕は今、不気味に蠢めいている邪神を指さしながら、この場にいる全員へと疑問の声を投げかける。
「……ッ!?な、何か、見えているのですか?」
そして、その判断は大成功だったようだ。
僕の言葉にエルピスさんが驚愕の表情を浮かべ、目を見開く。
それはエルピスさんだけではなく、他の人たちも同様。
どうやら、あそこにいる邪神が見えているのは僕だけだったようだ。
「……全部、夢だったりしないかな?」
どう考えても、僕だけが見えているのはおかしい。
僕はただの平民なんだけど。
特別なものなんて何もない、さっ!
そんなことを考えながらも、僕しか見えていないなら仕方ないと覚悟を決め、魔剣グリムを手に持ち、邪神の方へと歩を進める。
「……一つ目の化け物。一つ目の、化け物ですか?」
そんな僕へとエルピスさんが言葉を投げかけてくる。
「えぇ、そうですよ」
「そ、それはもしや……邪神、そのものではぁ」
「僕はずっとそう思って、行動しています……何か、殺せる手段はありますか?」
「か、神を殺すなど……っ」
封印は良いのか?
いや、純粋に不敬だから、というわけではなく、不可能だから、という話かな?
「……無理難題過ぎませんかねぇ」
これはもう、この場にいるもう一体の化け物である上空の奴が僕たちの味方であると信じることしかできなそう。
とりあえず、時間稼ぎでもしてみようかな。
「て、ティエラっ!私も手伝いますの!」
「見えていないのなら、すべてが僕の妄想だと思って無視して」
シオンの言葉はありがたいけど、見えていない相手と戦うのは難しいんじゃないかなぁ……適当に魔法を振りまいて、それで攻撃しない方がよさそうなところに攻撃しました!と、なれば最悪だ。
「……行くか」
蠢き終え、一つ目を動かし、僕を睥睨する。
そんな邪神を前に、僕は魔剣グリムを握ってまた、無茶を始めるのだった。
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