避難
僕が戻ってきたイミタシオン教の教会。
「ど、ど、ど、どうするのだっ!?まさか、ここまで早く動き始めるとは……」
「ま、まさかっ……動き出すのが上にいる未知の化け物ではなく、邪神だとはっ!封印はどうなっているのだっ!」
「町が……町が崩れている!ここもすぐに崩れてしまいますっ!」
「邪神が……邪神が蠢いている……もう、終わりだ。これが週末世界……」
「おぉ、おぉー!?神よ!我を救いたまえっー!」
そこは既に大混乱のパニック状態になっていた。
多くの人たちがその場で右往左往とし、何をどうしようかと悩んでてんやわんや。各個人が困惑の声を上げているだけだった。
「皆さん、落ち着いてくださいっ!」
そして、そんな状況を鎮めるためにエルピスさんが声を張り上げ始めたタイミングでもあった。
「まずは、地上からの脱出を図りますっ!ここにいては、崩れていく地面に合わせて私たちも落ちていってしまいます。早急に、現状をどうにかするために逃亡しようと思います。飛行魔法が使える人物がいれば、発動をお願いします。使えない人はこちらにいるシオン様とリトス様がかけてくれる手筈になっておりまして……」
「僕がかけますよっ!」
教会全体に声が届くよう、魔法で自身の声を拡散させながら言葉を話すエルピスさんの言葉へと割り込み、僕も彼女同様に自分の声を拡散させていく。
「そこら辺のことなら、僕の方が得意ですからっ!」
「ティエラ様……っ!それでは、お願いいたします」
魔法の出力に関して言えば、僕はシオンの相手にはまるでならないが、便利さなら上回っている。
一度に多くの人数へと魔法をかけるのは僕の方が得意だった。
「かけられましたっ!まずは一旦、動かないでくださいっ!」
僕が全員に飛行魔法をかけ、自由に空を飛べるようにするのは本当に一瞬だった。
このまま、全員を空の方にまで逃がしてしまおう……事態の猶予は、ない。
「まずは、ずらしちゃいますっ!」
僕は魔法で教会の構造を歪め、内部にいた者たちをそのまま上に向かわせるだけで全員が教会を後に出来るようセッティングする。
「引き上げますっ!」
それで、引き上げる。
僕は魔法で教会内部にいた人たちを一気に上空の方へと持ち上げていく。
「お、おぉおぉ!?」
「そ、空を飛んでいるぞっ!」
「こ、これは……っ!」
僕が全員を教会から避難させてからほんのわずかな時間の後、教会が崩れていく地面の割れ目に巻き込まれ、その中へと落ちていく。
「……ふぅ」
危なかった。
慌てて、戻ってきて良かった。
「ティエラっ!無事でしたのねっ!」
教会の人たちを頑張って持ち上げた僕に対して、シオンの方が一気に自分との距離を詰めてくる。
「うん、無事だったよ」
「ティエラ様っ!」
「ティエラ様、先ほどは助かりました」
「気絶はしなかったか!」
そして、他にもレトンやエルピスさんだったり、インターリたちも自分の元に来てくれる。
「僕は問題ないから……鐘が鳴っても、気絶はしなかったよ。教会の人たちにかけている飛行魔法は自動で維持され続けるタイプだから、心配しないでね。そんなことよりも、だよ」
僕は視線を上空にいる天使っぽい化け物の方へと一旦向け、そしてすぐにまた地面で蠢めいている触手たちの方へと戻す。
「まずは現状を何とかすることの方が先決……もう、この街は手遅れかもしれないけど、その被害を更に広げるわけにもいかない。はやく、触手を何とかしないと」
そして、僕は自分の手にある魔剣グリムを再度、力強く握るのだった。
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