急変

 シャリテ教の保護をエルピスさんに保証してもらった後。

 僕はすぐに街の住民の移動への協力の為、動きだしていた。

 自分の優位性は圧倒的なまでの万能性……住民の移動に関しても、僕は非常に有能だった。

 誘導等、僕の活躍できる場は多く用意されていた。


「これでもう街には誰も残っていないかな?」


 と、いうわけで僕が避難誘導の為に動きだして三日。

 街に残っている人はいないような状況にまで持っていくことが出来ていた。


「あぁー、疲れたぁぁぁ」


 本当にすぐ動き出し、ここまでほぼほぼ休むことはなく三日で街に残っていた人たちの避難を終わらせさせた。

 これだけ、頑張って特急に進めていったのにも理由がある。


「……もう少し、だろうか」


 僕は視線を天使の方に向ける。

 何となくの、本当に何となくの感覚の話だ。

 別に僕の持っている能力等が働いているわけではないのだが……何となく、あの空に浮かんでいる天使の動き出すタイミングを感知することが出来ていた。

 僕の感覚的に、あの天使が動き出すまでそこまでの猶予はなかった。


「……戻ろう」

 

 自分が一人だけいたとしても、何の意味もない。

 早くシオンたちと合流するべきだろう。

 その思いから、空を飛びながら街を眺めて残されていないかを確認してまわっていた僕は、イミタシオン教の教会の方へと自分の体を向ける。

 その瞬間に。


「……ッ!?」


 地面が、町全体が大きく揺れ始め、大量の魔力がこの場に湧き荒れ始める。

 快晴だったはずの空は、何時の間にか増えていった分厚い雲に覆われ始め、雷の音が鳴り響き始める。

 そして、その果てに地面から多くの触手が飛び出していく。


「そっちからかっ!?」


 その触手。

 それには実に大きな見覚えがあった。あの、馬車を壊した触手。一回は封印した触手。

 エルピスさんが語る邪神の振るう触手だ。


「ハァァァァァァアアアアアアアアアアアアアッ」


 大量に町全体の地面から湧き上がり、触手が振るわれるような状況の中、自分の元へと向かってくる数多ある触手の一部を僕は手元に召喚した魔剣グリムで斬り落としていく。


「……多すぎ」

 

 そんな中、ずっと地面から触手が沸き上がり、その数を増やしていく。


『ァァァァァァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア』


 街が、落ちていく。

 大量の触手が地面より湧き上がり、その数は最高潮に達していく。

 その結果、起こるのは地面の陥没だった。

 どんどんと、街の建物が地下へと落ちていく……。


 ───ゴーン、ゴーン、ゴーン、

 

 鐘が再び鳴り始める。

 大きく街が進んでいく中で。


「……まずッ!?」


 その状況下で、僕が頭の中に浮かべるのは気絶した自分の記憶だ。

 だが、今回は頭の中に甲高い、何を言っているのかわからないような声は響いてこなかった。


「……急ぐか」


 でも、いつ気絶するかも分からない。

 とりあえず、僕は今にも落ちる可能性のあるイミタシオン教の教会へと向かっていくのだった。

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