条件

 二度目の気絶から目を覚まし、そんな自分の元へと駆けつけてきてくれたシオンたちに僕が尋ねた、今の状況はどうなっているのか?という疑問。


「それについては、私から説明しますね」


 それへと答えてくれたのは新しく、部屋へと入ってきたエルピスさんだった。


「突如として響き渡った鐘の音に合わせて、この場へと出現したあの純白の怪物。あれが何者であるのか、それは私たちも理解出来ておりません。本山の方にも何か、情報はないかと連絡をいたしましたが……有力な情報は期待できないでしょう。一応、調べてもらえるとの言論はもらいましたが」


「……」

 

 マジか、天使っぽい見た目だから、イミタシオン教であればある程度の情報は持っていると思ったんだけど……知らないの?

 これは、ちょっと予想外。


「ただ、その純白の怪物に呼応するようにして、私たちが封印している邪神の方も呼応し始めています……はっきり申し上げますと、ここから何が起こるのはわかりませんが、それでもロクでもない状況が待っているのは確定的でしょう」


「確かに、そうですね。明らかにここからハッピーなことが起こるような状況にはまるで見えません」


 明らかに、天使のような怪物はやべぇ奴だ。

 少し視線を送ってみれば、堪えきれようのない恐怖が内側から上がってくる。

 あれは化け物であると、そう、断言出来た。


「故に、現在はこの街の住民の避難誘導を行っている最中です」


「……避難誘導?」


「はい。そうです。我々を主体として、アルカティアからコリンイへの避難を進めている最中です。彼らの食事もこちらで用意させてもらっていますので、問題なく行えているところであります」


「な、なるほど……」


 この時代に街の住民をまるごと避難させるとか、随分と思い切ったことをしたんだな。

 普通にびっくり何だけど。


「それで、ティエラ様。再度、お聞きします。現在の状況は更に悪化しているように感じられます。それであったとしても、まだ、この国の為に戦ってくれますか?ティエラ様の身分は何の義務も負っていない、自由な冒険者にございます。貴族でも、宗教家でもない。人々を守るための使命を帯び、その対価を平民の方々から頂いている我々とは違います。ティエラ様が逃げることを、誰も責めません。どうしますか?」


「自分だけで逃げるようなことはしないですよ。そこまで、薄情なつもりはありません。僕も戦いますよ?」


 逃げてもいい。

 そう言ってくれるエルピスさんに対して、僕はそう答える。


「本当に、よろしいのですか?」

 

「もちろんです。自分はお力になれるでしょうしね。


 ゲームの主人公がいて、イミタシオン教のサポートもある。

 多分だけど、ここで戦うのが最善だ。

 ここがあの化け物たちに破られ、邪神たちが自由を得る。

 そんな事態になったら、魔王もいるというのに本当に最悪で、世界の終わりと言ってもいいような状況になってしまうと思う。

 ここで、戦うのが結果的には最善になると、思う。


「ですが、交換条件があります」


 ただ、その中で、僕は一つ。条件を付けくわえる。


「何でしょう?」


「僕は今、シャリテ教の孤児院で生活を行っています。僕が戦うのはここまで、自分を支えてくれていたその孤児院の為、というところが大きいです。彼女たちのこともしっかりと避難させ、何の差別も行うことなくその生活を支える。そして、今後ともこの街でシャリテ教を守り続けられるようにする。それが、条件です」


 状況はひっ迫しており、ここからシャリテ教の為にイミタシオン教と戦う、なんてことは出来なそうだ。

 だから、僕は真正面から、交換条件として叩きつける……別に、今のシャリテ教を容認することくらい、イミタシオン教は否定しないだろう。


「ッ。貴方は……いや、何でもありません。承知いたしました。その条件を受け入れましょう」


 そんな僕の思惑通り、エルピスさんは少しばかり、悩んだ末に受け入れてくれる。


「私の名でもって、シャリテ教を受け入れることをお約束しましょう。ただし、その代わりにぜひ、お力を貸してくださいね?」


「えぇ、もちろんです。必ずやお役に立ってみせますよ」


 これでシャリテ教を守ることが出来たかな?

 全然想定した形とは違ってきた、それでも、しっかりと約束を守ることが出来た僕はほっと胸をなでおろしながら、こちらを頼るエルピスさんの言葉へと力強く頷くのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る