目覚め
また、気絶してしまった。
これまた知らない天井を見ながら、僕は体をゆっくりと起こす。
「……」
前回、気絶した時は起き上がったすぐのときは意識が混濁していたのだが、今の僕はやけに意識が冴えわたっていた。
なんか、いつもよりも絶好調な気がする。
そんな僕は自分が寝かされていたベッドからゆっくりと降りて、そのまま窓際の方に向かって行く。
「……何なんだよ、あれは」
窓から見える外の世界。
それは、ここが本当に自分たちの住む世界なのか疑わしいまでに変貌していた。
空は暗く紫色の光に彩られている。
「……神」
そして、その空には、僕が気絶する前に見た真っ白な一つ目の、触手と三対の翼で飾られた怪物である。
「なんか、ツ〇ッターで見たような外見かも」
その見た目をわかりやすく言うなら、ツ〇ッターでたまに流れてくる天使の本当の姿、とかいう奴にかなり似ている感じだ。
僕は直感的に神様であるかのように感じたけど、もしかしたら天使なのかもしれない。
そんなのがふよふよと色が変質した空に浮かんでいるのだ……本能的な、恐怖をくすぐられてしまう。
「起きたんですのっ!?」
「起きましたか!」
僕が窓から空に浮かんでいる天使っぽい怪物を眺めていると、自分が寝かされていた部屋の扉が勢いよく開かれ、シオンとレトンの二人が大慌てな様子で駆け込んできた。
「大丈夫だったか?」
「何か、必要なものがあれば俺に言えよ?すぐに持ってきてやるからよ」
「大丈夫だったかしら?何か、辛いところはないかしら?」
そして、その後ろからインターリたちの方も遅れて入ってくる。
「うん、大丈夫だよ」
「「「「「……ッ!?」」」」」
そんなみんなの方に視線を向けた僕はそのまま彼女たちの心配に答える。
「それで、今はどういう状況なのかな?あの、空に浮かんでいる奴は一体何なの?」
そして、その次に今の状況を尋ねるのだった。
■■■■■
ティエラは常に危なっかしい。
何処かぼーっとしていて、いつも誰かに騙されやすそうになっている。
だから、私が助けなきゃいけないんだ。あの日、ティエラに頼まれた私が助けてあげなきゃいけないんだ。
ティエラの面倒は私が見て、私が助けて、私と一緒に行きていく……そうあるように生まれたんだ。
それこそが、ティエラが一番幸せになれるんだから。
「……」
ここ最近のティエラはより一層、心配だ。
騙されやすくはあったが、その代わりに肉体的にはトップクラスだったはず……それなのに、ここ最近のティエラは良く気絶している。
彼の、体は一体どうなっているというのか。
本当に色々と心配だ。
「起きたんですのっ!?」
だから、私はティエラを監視するような魔法をかけ、彼の様子を常に見続けている。
彼が起きたことを確認した私はすぐに、彼の元へと駆けつける。
「……」
部屋へと転がり込んできた私は、すぐに気づく。
窓際に立ち、外を儚げな表情で眺めているティエラの雰囲気が、いつもとは大きく違うことに。
「うん、大丈夫だよ」
「……ッ!?」
息を飲む。
ティエラの相貌はいつもの優しいものから、何処か鋭く、凛々しいものに。
あの時だ。
思い出すのは、魔王と戦っていた時。
私たちの前で戦いを指揮し、たった一人で魔王と戦っていた時の───そんな、英雄であるかのような、彼の姿だ。
「(え、えぇぇぇぇえええええええええええ!?)」
あまりのギャップ。
凄すぎるギャップを、不意打ち的に食らった私は思わず内心の動揺レベルを上げる。
反則だ。
いつものように柔らかい笑みを向けられると思っていた私は、彼のカッコいい姿を叩きつけられて、情緒を大きく乱される。
かっこよすぎる、かっこよすぎる、かっこよすぎる。
「(……でも)」
ただ、ここで忘れちゃいけないのはティエラの思考が冴えわたり始めるのは何か、どうしようもないレベルの危機が迫ってきたときになる。
つまり、今はまだ何か致命的なことは起きていない状況でありながらも、ティエラの鈍感を極めている危機感知能力が警鐘を鳴らしているということ。
私はティエラのカッコいい姿に見惚れながらも、ただ、目の前に立つティエラの姿を見ながら、恐怖も共に感じるのだった。
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