亀裂

 僕の前でにらみ合いをシオンとレトンが続けていた中で。


「……ッ!?」


 何かを、感じ取った僕は全身の毛を逆立たせる。


「な、何が……っ」


 突然感じた感覚。

 それを前に困惑の感情を覚え、これからどう動くか少しばかり僕が悩んだ。

 その瞬間。


 ───ゴーン、ゴーン、ゴーン、


 鐘が鳴る。

 街全体に、神々しい鐘の音が響き渡っていく。


「な、何の音ですの……?」


「鐘の音、ですか……?」


 その音を受け、シオンとレトンも言い争いを辞め、周りを見渡し始める。


「この街に、鐘なんて」


 ありえない、この街に鐘の音が響き渡るなんて……だって、そもそもとして、この街に鐘なんてないのだから。


「おいっ、お前ら……見ろよ、空。何か、割れていやがる」


 僕が困惑していると、その耳にジャーダの声が入ってくる。

 それに従い、その視線を空の方に向けて見れば。


「……ッ!?」


 彼の言う通り、空が割れていた。

 雲一つない青空だったそこは今、その一部へと亀裂が入り、そこから淡い光が漏れ出していた。


「何、なの……?」


 一体、あれは何なのか。

 それを理解出来ない僕はただただ、困惑の声を呆然と漏らす。

 その次の瞬間。


『───ッ!!!』


 僕の頭の中へといきなり甲高い、何を言っているのか不明瞭な声が響いてくる。


「あぁぁぁぁぁぁああああああああああああ!?」


 その声を受け、僕は思わず悲鳴を上げて


「ティエラっ!?」


「ティエラ様っ!?」


「おいっ!」


「ちょっ!?大丈夫なのっ!?」


「う、ウソだろ……大丈夫かっ!!!」


 いたいいたいいたい。

 頭が割れるように痛い、声が、声が、ずっと……僕の頭の中に響いてくるっ。

 僕は自分の元へと心配で駆け寄ってきてくれているシオンたちに何の反応も返すことが出来ないまま、ただただ頭を抱えてその場で蹲り続ける。


『───ッ!!!』


『───ッ!!!』


『───ッ!!!』


 ずっと、ずっと、ずっと。

 声が響いてくる。


「あぁぁぁぁぁ」


 それでも、僕は苦悶の声を漏らしながらでも、視線を上に持ち上げる。

 まだ、空へと出来上がった亀裂から目を離してはいけないような気がして。


『ォォォォォォオオオオオオオオオオオオオオ』


 ちょうど、僕が視線を送った時。

 降りてくる。亀裂から一つの存在が。

 亀裂から降りてくるのは大量の触手を携えた、三対の翼を持った一つ目の存在だった。

 その存在は何処か、あの時に見た形容しがたい、何処か冒涜的な、灰色の怪物たる一つ目の巨大な生命体と似ているような雰囲気を持っていた。


「……神、さま?」


 その存在を、その目に焼き付ける僕は、朦朧とする中でそうつぶやき、そして───。



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