立ち話
図書館から孤児院の方へと戻ってくる途中で。
「私の渡した本はお役に立ったでしょうか?」
「えぇ、その節はありがとうございました。おかげで、あまり詳しくなかった神話の話についての理解を深めることが出来ました」
エルピスさんとバッタリ出くわした僕はそのまま立ち話を広げていた。
「それならば、良かったです。あの本に関しては差し上げます」
「えっ!?良いんですか?」
「はい。私の使命の一つに神の教えを伝えることがあります。聖書を手に取り、満足げにしている人に聖書を渡さないという選択肢はございません」
「なるほど……それでは、ありがたく頂きます」
周りに多くの教会関係者がいる中での会話は結構、目立っているが……僕に関しては連日連夜の魔物運搬で既に尋常ないレベルの注目を浴びていた。
これくらいは今更だった。
「話は少し変わりますが、聖女であるレトン様とお会いしたことはありますでしょうか?迷宮都市の方で一緒になったという話も聞いたのですが」
「レトンとですか?えぇ、ありますよ……あそこでの話は既にもう知れわたっているのですか?」
「えぇ、まだ、概略程度ではありますが。伝説上の存在だと思われていた魔族が現れ、それを倒したのはアルケー王国の貴族たちと聖女。そして、一冒険者であったという話は既に世界中へと知れわたっていると思いますよ。詳しい情報などはまだ、あまり回っていないと思いますが。特に、ティエラ様のお話は」
「まぁ……自分は何処までいっても冒険者ですしね」
最年少記録を結構持ち、子供ながらに多くの依頼をこなしてきた僕は冒険者たちの中じゃある程度の知名度を持っているが、所詮は冒険者。
本物の王国貴族たちやイミタシオン教の聖女がいれば、僕の存在感なんてないに等しい話になるよね。
「それで、そのレトン様についてなのですが」
「はい」
「邪神と向かい合う際、彼女に援軍として来てもらえるように頼むつもりです。ティエラ様にはレトン様と協力してことに当たってもらいたいのですが、構いませんか?既に、面識があるのであれば、そちらの方がやりやすいでしょう?」
「……あー」
レトン……レトンか。
「……」
レトンが来る。
それを聞いて、僕の頭へと真っ先に浮かぶのはあの、自分を神であると妄信し始めたあの姿。
でも、既に僕とレトンが分かれてからそこそこの時間が経っている。
それに、この場にはイミタシオン教の高官であるエルピスさんを初めとする彼の宗教の凄い人たちが揃っている。
そんなところで僕が神なんだ!と話して、受け入れられるわけないし、話したとしても、周りから諭されてくれるよね。
「そうですね、そちらの方がやりやすいかもしれません。共に魔王と戦ったこともありますし」
「承知いたしました。それでは、そのように話を進めてまいりますね」
「はい、お願いします」
「それでは……呼び止めてしまい、申し訳ありませんでした」
「いえいえ、全然大丈夫ですよ」
「そう言ってくださるのであれば幸いです……それでは、また。お願いします」
「はい、また」
立ち話をしていた僕は途中で自分を呼び止めてきたエルピスさんと別れ、今度こそ、孤児院の方へと戻ってくる。
「ただいま」
「「「おかえりぃーっ!!!」」」
孤児院へと帰ってくるなり、僕は多くの子どもたちから熱烈な歓迎を受ける。
「ティエラ様。夕食はあと少しで出来ますので……少々、お待ちください」
「うん、ありがとう」
「楽しみにしていてよねぇ!おにぃ!」
「うん、楽しみにしている……それじゃあ、僕は自分の荷物を部屋に置いてくるよ」
「はーい」
僕は大広間の方で言葉を交わした後、自分とシオンが使っている部屋の方に向かっていく。
「ふんふんふーん」
エルピスさんから貰った聖書など。
帰ってきたときの僕の荷物はかなり多くなっていた。
それらを部屋の中でまとめ、収納していく。
「よし、おっけー」
とはいえ、そこまで時間がかかるわけでもないけどね。
「手伝いに行こうかな」
やるべきことを終えた僕が部屋から大広間の方に戻ろうと、部屋の扉の方へと向かっていく……その瞬間。
「……誰と話していたんですの?」
僕は自分の視界を後ろから片腕でふさがれ、流れるように己の両手も一緒に締め上げられる。
「ねぇ、ティエラ」
「し、シオン……?」
そして、そのまま僕はひんやりとした感覚を拘束されている自分の手首に感じる。
結界魔法が発動される感覚と共に、この場が閉じられる。
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