神話
時は昔。
まだ、この世界が人の世ではなく、神の世であった時代。
世界には幾つもの神が、否、神へと至れぬ者たち、神の候補者たちが数多く存在していた。
未だこの世には絶対にして、崇高なる神が存在していなかった。
神の座は永久に空白であった。
その座に座った者こそ、イミタシオン教の神───『テオス』である。
数多くいた有象無象の神の候補たちの中で、最後に神となったテオスこそが真なる神であり、唯一の神である。
なれど、その神の座を諦めきれず、テオスへと仇為す神の候補者たちが多くいた。
その者たちこそが悪辣非道なる邪神であり、神であり星の調停者たるテオスの足を引っ張るようにこの世界へと災禍を振りまいた。
そんな者たちをテオスはその大いなる力で封印し、災禍を封じて見せた。
そして、そのテオスは自分が現世にいることが邪神たちへと刺激を与えることを危惧し、封印したそれらの管理を人類に託し、自分は天に昇っていた。
これより、世界は人の世となったのだ。
「うぅん……」
これが、この世界の神話である。
過分にイミタシオン教の思惑が入っているが、シャリテ教など、この街へと残っていた幾つかのイミタシオン教以外の聖書を読んでも、登場人物が違うだけで概ねは同じような歴史が綴られていた。
……あの時、見た者が邪神だと言われて、反発するような気持ちは生まれない。
もしかしたら、ここら辺の神話は本当にあった実話なのかもしれない……。
「……ここら辺の、時代はゲームでも触れられていないんだよなぁ」
とはいえ、だ。
だからと言って、僕がそれを受け入れて現状の何かが変わるわけでもない。
僕の原作知識、ゲームの知識ではこんな神話の話なんてほとんど触れられていなかった。
ゲームでメインとなっていたのは魔王の話。
神話の時代よりも遥か後の、勇者と魔王の戦い。
そして、後世にまで残ってしまった、復活した魔王と現代の勇者たる主人公の戦いがメインだった。
ほとんど、イミタシオン教にスポットライトは当たっていなかった。
「うーん」
僕はエルピスさんから受け取った分厚いイミタシオン教の聖書を閉じながら、少し前の会話を思い出す。
『どうか、私たちに協力してくださいませんか?邪神に対抗するため、我々の力になってほしいのです』
僕とシオンの二人に対して、深々と頭を下げていたエルピスさんの言葉。
『もちろんですよ。世界に災禍が振りまかれる可能性がある、と言われて、断ることなんて出来ませんよ……シオンも、それでいいよね?』
『私は何処まで言ってもティエラに誓いますわ』
『そういうことですので』
『本当に、ありがとうございます』
それに対して、僕は頷き、自分とシオンは共にエルピスさんたちと協力することに決まった。
「はぁー」
事情説明が終わった後、エルピスさんから参考資料として受けとった聖書並びに、各宗教の聖書を探し出して、この街にある図書館で読み終えた僕は大きく体を逸らしながら息を吐く。
「……疲れた」
既に時刻は夕方。
大事なところだけ抜粋したり、魔法で己の思考能力等を強化することによって速読したりすることで大幅に読書時間を短縮した僕はそのままゆっくりと立ち上がる。
「帰ろ」
そして、そのまま先にシオンだけ帰ってもらっていた孤児院の方に僕も帰っていくのだった。
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