正体

 鏡に映る自分を見て、僕が改めて己の姿を見つめ直していた中で。


「お待たせいたしました」


 僕とシオンが通された応接室の扉が開かれ、エルピスさんが部屋の中へと入ってくる。


「いえいえ、全然待っていませんから、どうぞお気になさらず」


 そんなエルピスさんへと僕は立ち上がりながら声をかける。

 そして、エルピスさんが椅子へと座ったタイミングで僕も座り直し、二対一の構図で向き合っていく。


「本日はありがとうございます……あの場において、尽力していただいたティエラ様とシオン様に事情を話さないわけにはいかないと思い、今回の場を設けさせてもらったのです」


 そんな中で、エルピスさんがゆっくりと語り始める。


「お話というのは、あの触手についてのことですか?」


「えぇ、そうです。あの触手が何なのか、それが私の話したいことになります」


「……なるほど」


 触手、触手の話、か。

 僕があの場での説明をしようと思ったら、触手を出していた見てはならないという強迫感と根源的な恐怖を植え付けてくる一つ目の怪物について、と切り出すのだけど……。

 あれは、……僕の、幻覚だったのかな?


「私が話したいのはあの触手が一体何者であるか、という話と、現在の状況について。その二つです。それではまず、一つ目の話から。単刀直入にまずは結論から話しましょう。あの触手は神です」


「んんっ?」


「……ッ」


 僕はエルピスさんの口から出てきた想像よりも仰々しい単語に首を傾げ、固まる。

 えっ?何て?神?


「神、とはいっても、あれは邪神の一柱なわけですが」


 僕が困惑している間にも、どんどんとエルピスさんは話を進めていく。


「触手についての詳しい正体についての話をする場合、話を神話の時から戻し、始めていく必要があります。ですので、ここではあまり詳しく話すつもりはありません」


「……」


 話が、話が大きい。

 神話からっ!?何、この世界じゃ神話から現代までちゃんと一繋ぎになっているの?

 魔法がある世界だから、そんな……そんな不思議なことでさえもないのか?


「ただ、知っておいて欲しいのが、その触手は私たち人類の敵と言ってしまってもいいような存在であるということです。邪神は人に祝福を降ろすような存在ではなく、災禍を振りまくような存在です。決して、想像されるような神ではありません」


「……」


 神道とかいう謎の宗教が広がっている日本生まれの僕としては、やべぇ存在である方が、イメージにある神様オズに合致するけど。


「これがあの触手が何なのかについての話です。詳しくは書籍を貸しますので、それで読んでくれると」


「ありがとうございます」


 後でしっかりと読んどこ……それにしても、今回の一件もやっぱりゲームの世界には出てこなかった、僕の知らない話だよ?

 ちょっと原作知識君が息をしていないこの状況はどうにかならないものだろうか?


「それで、二つ目の話に移ります」


「はい」


「私たちの目的はその邪神の何の問題もなく、移送を行うことでした。ですが、見ての通り、問題がない、なんてことはありませんでした」


「……」

 

 あれ?なんかヤバそう。


「原因は不明ですが、しっかりと封印を施していたはずの邪神が今、暴走しています。現在は辛うじて、封印を保って眠らせているような状況ですが、完全復活するのも時間の問題です」


「おっふ……」


「時期としては、あと一週間ほどであると考えています。邪神が復活し、この世界に対して災禍を振りまき始めるまで」


「……」


 ……。

 …………。

 こ、これ、これはシャリテ教かどうのこうのとか言っているような余裕はあるのかな。

 普通にエルピスさんたちは邪神とやらの対処が大変で、絶対にシャリテ教のことなんて見ていないでしょ。


「……イミタシオン教に出来るか、どうかわかりませんが、その邪神をどうにかしようと動こうとしている最中にございます。そして、ここからはお二人に対してお願いです」


 エルピスさんはイミタシオン教の大司教。

 世界でも有数の影響力を持った権力者と言ってもいい。


「どうか、私たちに協力してくださいませんか?邪神に対抗するため、我々の力になってほしいのです」


 そんな人が今、僕とシオンの前で深々と頭を下げながら、お願いの言葉を口にし始めるのだった。



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