イミタシオン教の教会

 シオンは僕の見たあの、絶対に見ちゃいけないような感覚をこちら側に植え付けてきた怪物を見ていなかった。

 その事実を前に、僕が困惑しながらも。


「ここですわ」


 シオンと共に、僕はアルカティアにあるイミタシオン教の教会へとやってきていた。


「……うわぁ」


 世界宗教であり、アルカティアにも強い影響力を持つイミタシオン教。

 そこの本陣であるから、イミタシオン教の教会が立派なのは理解できる。

 だが、それでも、僕は思わずシャリテ教の方と比較して悲しくなってしまいそうな豪華で立派なイミタシオン教の教会を前にして、感嘆の言葉を漏らす。


「凄いな……これは」


「やっぱり、無駄に派手ですわよね、ここは」


「そうだね……んっ?」


 そんな僕はちょっと危ないシオンの言葉へと軽率に頷き、すぐに自分で己の首を開く。


「入りますわよ」


 だが、シオンはそんな僕を置いて、さっさと教会の中へと入っていく。


「あっ、ちょっ……って、すご」


 先に行ってしまったシオンの後を追って慌てて教会の中へと入った僕はまた、教会の内装の豪華さに感嘆の意を抱く。

 部屋の中も、それはもう見事にすごかった。


「あっ、シオン様……それに、ティエラ様っ!」


 想像を超えて豪華だったイミタシオン教の教会の内装を前に僕が足を止めていた中で、神官服を着た一人の男性がこちらの方へと近づいてくる。


「んっ?……あぁー、あの時にいたっ!」


 そんな男性の姿を見て、僕はすぐに自分の記憶から一人の人物を引っ張してくる。

 彼はあの触手が暴れ狂っていた中で、僕が馬車から救出したイミタシオン教関係者のうちの一人だったはずだ。


「覚えていてくだしたんですね。あの時は助かりました」


「いえいえ、気にしないでください。それが自分の仕事ですから」


 ちゃんとあっていたようだ。


「もう、容態は大丈夫ですか?」


「えぇ、大丈夫ですよ」


「それなら、良かったです……大司教様であるエルピス様がティエラ様と少し、お話をしたいとの旨を発言しておりました。今、御時間の方はありますか?


「大丈夫ですよ。今日はそのために来ましたので」


「ありがとうございます。それでは、自分が大司教様を呼びにまいりますが、一旦はまず、応接室の方にお二人を案内いたしますね」


「はーい」


「わかりましたわ」


 僕とシオンは共に神官の男の言葉へと頷き、そのまま彼の案内に従ってこの豪華な教会にある応接室の方にやってくる。


「それでは、こちらでお待ち下さい」


「わかりました」


 応接室にある豪華な椅子。

 そこに腰掛ける僕は神官の男の言葉に頷き、エルピスさんを呼びに行った彼を見送る。


「ねぇ、ティエラ」


 その後、僕の隣に座ったシオンが自分のことを呼ぶ。


「ん?何?」


「エルピスに注意しますの。あいつはあの年になるまで、婚約者どころか、仲の良い男でさえも出来なかった最低レベルの喪女ですわ。それで、なおかつ、年下の男の子が好きなド変態ですの。生きる価値もないような、そんな女ですわ。純粋に気を付けた方が良いですわ……結構、黒いうわさもありますの」


「そ、そうなんだ」


 えっ、ん?急に、何?

 めちゃくちゃのディスが入ったよ?……別に、僕とか注意しなくとも他の人を狙うような気もするけど。

 イミタシオン教の高官なら、もっとちゃんとした美少年をいくらでも食い放題なイメージがあるよ。

 

「そ、そっか、ありがとう」


「ですが、私もいるので安心しますわ。ちょくちょく詐欺にかかっていたティエラを助けてきたように、これまでも私が助けますわ、ですから、ずーっと私と一緒で、私に任せてくれればそれでいいですわ。私がティエラのすべてを面倒を見てあげますので」


「うぅ……全部とかはいらないけど……詐欺とか、騙されそうとか。そこらへんはその、お願いね?」


 本当に、僕はちょくちょくやるからな……。

 結構な頻度で詐欺の被害者になりかけている……もう既に、結構シオンから助けられたことがあった。

 

「……あっ」


 なんてことを考えたところで、僕はこの部屋にあった鏡に気づいて、そこに映っている一人の見知らぬ美少年……いや、全然実感のない鏡に映る自分の姿を前にして、言葉を漏らす。


「……」


 そういえば、今世の僕は絶世の美少年だったか。

 毎回、ここの感覚がぽろぽろと抜け落ちていくんだよなぁ……。

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