目覚め

『───』


『───』


『───』


 頭の中に判然と響いてくる謎の声。

 

「……ん、んぅ」


 それに唸らせながら、それでも、僕はゆっくりと意識を浮上させる。


「ふわぁ……」


 そんな僕が寝ぼけ眼を手でこすらせながら、瞳を開けた時。


「……ッ!?」


「……ん?」


 自分の視界いっぱいに広がるのはすぐ近くにまで迫る、赤く染まったシオンの顔だった。


「お、おはよう……?」


 思ったよりも近くにあるシオンの顔。

 それを前に僕は困惑の感情を浮かべながら、それでも、とりあえずおはようの言葉を絞り出す。

 ……。

 …………。


「んっ、えっ?」


 近くね?なんか。

 同じベッドでは寝ていたけど、ずっと互いに顔を背けていたし、それにそもそもこんな近くにまでなることはぁ……。


「お、おはよう……ございますわっ!?」

 

 何てことを考えていた中で、いきなりシオンは大慌てな様子であいさつの言葉を口にする。


「それじゃあ、私は一旦、大広間の方にいっていますわっ!」


 そして、そのままシオンは大慌てでベッドから這い出て、大広間の方に走り去っていく。


「何なの?」


 そんなシオンを前に、僕はゆっくりと首をかしげる。

 それに、だ。

 もう一つ不思議に思うことあるんだよなぁ。


「……なんか、湿ってない?」


 自分の首元や指。

 なんか色々なところが湿っている気のする僕は更に己の首をかしげながら、とりあえずは視線を上に持ち上げて、天井の方に視線を向ける。


「孤児院の、見慣れた天井だ」


 確か、僕は見ちゃいけない。

 そう思わされる怪物から視線を外せずに固まっていた……その、後に、何だったけか?

 何で僕は気絶したんだっけ。


「……はぁー」


 なんか、気分悪い。

 絶妙に。

 36.9度の凄い絶妙に何ともないともいえる僅かな微熱のある感覚が。


「立つか」


 少しの間、ぼーっと天井を見ていた後、僕はベッドから出ていく。


「あー……うなぁ……」


 そして、そのままシオンも向かっていた大広間の方に僕も向かっていく。

 そんな僕が大広間に足を踏み入れた瞬間。


「あっ!ティエラにぃ!起きたのかっ!」


「だ、大丈夫でしたかっ!?」


「おぉぉぉぉぉ!どぉーんっ!!!」


 一気に大広間にいた子どもたちが僕の元にまで集まってくる。


「わわっ!?」


 ちょっ!?いきなり、びっくりっ!?

 

「ちょっと!いきなり押しかけないのっ!困っているじゃないっ!」


「あっ、レビスタ!」


 子供たちを前にして僕がびっくりしていた中で、レビスタが声を響かせる。


「ほらっ!散りなさいっ!」


「「「はーい」」」


 レビスタの発言力はかなり大きい。

 年長者として、しっかりと子供たちの手綱を握るレビスタの言葉に子供たちが去っていく。


「ごめんなさいね。他の子たちがもううるさくて」


 そして、そのままレビスタは僕の方に謝罪の言葉を口にしてくる。


「いやいや、子供なんて元気であるべきだからね。でも、ちょっとさっきはびっくりしちゃったから……ありがとうね、レビスタ。助かったよ」


 そんなレビスタの方に僕が視線を向けると、その隣には一人の少女が立っていた。


「んっ……あっ、その人が?」


「えぇ、私のお姉ちゃんよ」


 ずいぶんとレビスタと似ていて、それでも、大人びた雰囲気を見せている少女。

 その彼女を手で示すレビスタは僕の言葉に頷き、自分の姉であると紹介してくれるのだった。

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