封印
時間稼ぎ。
それは僕が最も得意とすることである。
「よっ、ほっ、せっ」
僕は手に魔剣グリムを持ち、大量に迫ってくる触手たちを斬り裂いていく。
触手たちの数に、再生能力は高い。
だけど、今のところはただ、それまでだ。
別に斬れないわけでもじゃないし、捉えきれないほどに早いわけじゃない。
僕は余裕をもって触手の攻撃を回避し、斬り裂き、対応していた。
今のところは触手が馬車の方からしか伸びず、一直線でしか攻撃を仕掛けてきていなかったことも、大きくプラスに働いていた。
『───』
ただ。
『───ぁ』
目の前で蠢いている大量の触手たちから僕は得も知れぬ不気味さ、を感じ取っていた。
それに、だ。
『─き、……よ』
さっきから自分の頭の中にずいぶんとぼやけた、明瞭しがたい謎の声も響き続けている。
何の、声なのだろうか。
「ハァァァァァっ!」
わからないことは多い。
だけど、それでも僕は黙々と触手に向き合い、戦闘を続けていく。
『……よ、よ、よ』
「……いっ」
触手との戦闘は決して、気が抜けるようなものではない。
ぶよぶよとしていて決して攻撃力が高いようには見えない触手ではあるが、それでも、その攻撃力は異常なまでに高い。
そう油断出来るわけでもない。
回復魔法もあるが……探知魔法が少しうまく行っていない以上、回復魔法の方を阻害される可能性もある。
今のところは何の問題もなく機能しているけどね。
「ティエラ様っ!」
そんなことを考えながら僕が触手を相手に一人で戦い続けていた時、後ろよりエルピスさんから声をかけられる。
「はいっ!?」
「こちらは準備できましたっ!少し下がってきてくれるとっ!」
「了解です」
僕は一気に魔法を展開。
後先の子とは考えない完全開放の魔法の波でもって一旦、触手の大部分を洗い流してから僕は後ろへと下がっていく。
例え、僕の魔法を食らって大きくその触手の数を減らしていたとしても、すぐさますべて再生して、こちらの方へと近づいてくる。
「行きますっ」
だが、その頃にはもう既にエルピスさんの準備が終わっていた。
ゴーラスがゴブリンを殲滅していた時に持っていた杖を持つエルピスさんはそれを振るう。
「わぁぁ」
その瞬間、天が割れ、光が差し込む。
太陽によって照らされ、明るく保たれているこの星……だが、それよりも大きな光が天より差し込み、荒れ狂う大量の触手へと照射される。
『オォォォォォォオオオオオオオオオオオオオオオオ』
また、声が響く。
触手が動き出した時と全く同じような声がこの場に響き渡り、そのまま触手はその体を天へと引っ張られていく。
光に照らされた触手は地下の中から、地上へと引っ張られていっていた。
これが、エルピスさんの……いや、あの杖の使う封印魔法なのだろうか。
こんなものは、初めて見た。
「……」
これまでは見えていなかった触手の部分が、深く絡まって動けなくなっている触手の部分までもが、光に照射されて天へと昇っていく。
そして。
『ァァァァァァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア』
背筋が、凍る。
「……ッ!?」
見てはいけないものを見てしまった。
「……ぁ、あぁぁぁ」
天に引っ張られていく触手と共に出ていくもの。
それは、一つ目の巨大な生命体。形容しがたい、何処か冒涜的な、灰色の怪物。
それを前に、僕は思う。
これは、見ちゃ駄目だ、駄目な奴だ、と。
「……っごく」
そんな、思いに駆られる僕であるが、それでも、何故か目を背けることが出来ない。
ただただ、恐怖に掬われる思いを抱きながら、呆然と眺める。
そんな中で。
『───ッ!!!』
何かが。
「あァァァッ!?」
いきなり自分の鼓膜より衝撃が走って脳が揺れ、僕は悲鳴を上げながら意識を闇へと落としてしまうのだった。
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