対応
低く、唸るような声が響いたと共に、馬車の床を突き破ってこの場に姿を現したのは幾本もの謎の触手だった。
「何なん!?これはっ!?」
馬車を壊して荒れ狂い、自分とシオンはもちろん。
エルピスさんに、その護衛役の人たちも合わせて守っている自分の結界魔法へと攻撃を仕掛けているその触手を前に僕は困惑の声を漏らす。
そんな荒れ狂う触手は、実に強力だった。
「いっつぅっ!?」
急ごしらえとはいえ、それでも、僕が全力で貼った結界。
それを容易に破壊し、その触手で自分の腕を貫いてきたという事実を前に、僕は眉をひそめながら触手を斬り捨てた後に再度、結界を貼る。
「逃げるよっ!」
まずはエルピスさん。
僕は強引に結界ごと動かし、中にいた全員を丸ごと移動。
馬車の中から去り、地面の方へと着地する。
「シオンは護衛に集中してっ!」
その後、エルピスさんをシオンに任せ、僕は迷うことなく馬車の方へと戻っていく。
そんな僕は自分の腕、触手に貫かれ、血を流している己の腕へと触れる。
「ふぅー」
血の流れる腕に触れさせる己の指より得られるドロリとした感触。
そこから、僕はゆっくりと指を引き延ばす。
それと共に己の血も指と共に広がっていく。
己の体の外から溢れ、外気に触れていく血はその端から姿を焔へと変え、この場に熱をぶちまける。
「……ちゃんと燃える」
僕が広げた炎はしっかりと急に現れた触手を焼き、消失させていた。
「よっと……ここかな?いたいた!大丈夫ですか!」
「き、君は……?」
「そんなことは良いから、逃げますよっ!ここに来ては危険ですっ!」
触手が燃えるばかりか、馬車までもが燃える。
そんな中で、僕は迷うことない足取りでこの場を駆け抜け、馬車の中に取り残されている人たちを次々と救い上げ、シオンのいるエルピスさんの元へと運んでいく。
「大丈夫ですか!今、助けます!」
「お、おぉ!助かる!」
「お待たせしました!一緒に逃げますよっ!」
「わ、私も助けていただけるのですか……?」
「平民だろうが、助けますよっ!自分だって全然、平民ですしっ!」
馬車の中にいた人達の数はかなり多い……だが、今のところ、まだ死傷者は出ていない。
僕の炎の展開が辛うじて間に合い、多くの人の命を奪うところだった触手を叩き潰せたからだ……とはいえ、早く救出しないと僕の炎のせいで死傷者が出てしまうわけだけどっ!
僕は大急ぎで馬車の中を巡り、多くの人をどんどんと救い出していく。
「ゴーラスさんっ!大丈夫ですかっ!?」
「あ、あぁっ!」
「今、助けますっ!」
「か、感謝しますぞっ!ど、どうやら私の目には狂いがなかったようですっ!」
「そう言ってくれたのであれば、良かったですっ!」
最後に、ゴーラスさんをエルピスさんの元に届ければ全員。
ちゃんとあの馬車の中に人たち、全員を救いだすことが出来たと思う。
「……」
それにしても、今度は光の腕を展開できなかったのか。
やっぱり、僕の見た目通りにゴーラスさん自身は弱いみたいだね。
「さて、と……シオン。大丈夫だった?」
「えぇ、今のところは大丈夫ですわ」
未だに触手は馬車の周りで僕が展開した炎に焼かれながらのたうち回っていた。
「減らない。いや、むしろ───」
───増えている。
「……そう、ですわね」
かなりの数の触手は僕の炎によって焼かれているはずである。
だが、それなのに触手の数は減るどころか、どんどんと増えていっていた。
現状が、無事であるはずがない。
「……」
僕は触手へと幾つもの魔法をかけ、あれが何なのかを探ろうとしながら、何時でも動けるように構えておく。
「ティエラ様。シオン様」
そんな中で、自分の後ろにいたエルピスさんが僕たちへと声をかけてくる。
「あの、触手たちについてですが……」
「……ッ!?何か、知っているんですか!?」
触手について何か知ろうと、魔法を使ってはいるものの、何か霧がかってるような感覚でうまく掴めていなかった僕は、すぐにエルピスさんの言葉へと反応する。
「えぇ、あの触手は───」
そんな僕の言葉に対して、エルピスさんが返答しようと言葉を話し始めた瞬間。
「「……ッ!?」」
大量の触手が一気に馬車のすべてを粉砕しながら飛び出し、そのままの勢いでこちらの方へと急速に迫ってくる。
「貫けっ!」
「燃えなさいわっ!」
それに対して、素早く反応した僕とシオンは共に魔法を発動し、一気に触手を粉砕していく。
「ちぃ……」
それと共に、僕は魔剣グリムを手に召喚し、足を力強く踏みしめる。
もはや、悠長にエルピスさんの言葉を聞いていられるような時間はなくなってしまった。
「ティエラ様っ!あの触手たちの討伐方法はございません!不死身と言ってしまっても差し支えないです!ですので、封印する他ありません!封印はこちらで行いますが、時間がかかってしまいます。どうか、時間を稼いでください」
動き出す準備を終えた僕へとエルピスさんは声をかけてくる。
「了解しましたっ!」
そんな言葉に頷いた僕は迷うことなく触手の方に向かっていくのだった。
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