歴史
自己紹介の後。
「貴方の活躍は聞いておりますよ。まだ若いのに、多くの人へと寄り添いながらその敏腕を振るっておられるとか。素晴らしいですね」
「ありがとうございます」
おっとりとした雰囲気のイミタシオン教の高官であるエルピスさんはまず、僕のことを褒めてくれる。
うーん……それで、何で僕のことを呼んだのだろうか。
多くの人に寄り添いながら、とあるし……僕を人気集めに、いや、そんな影響力はないよね。
今後のことも考えての、になるのかな?
「まだ若くにして、大司教の座におられる敬虔な信徒であるエルピス様からそう言われたのであれば、僕としても祝福を受けたような気分になります」
僕はエルピスさんが何の目的で自分に会っているのか、それについても考えながら、相手のことも褒め返す。
「ふふっ、ありがとうございます。そう言っていただければ、私もここまで頑張ってきた甲斐があるというものです」
「自分の一言でそこまで言ってくれるとは……大司教であるエルピス様に自分の言葉が届いたことを幸せに思うばかりです」
「ふふっ、そこまで感心なさることはないですよ。大切な誰かの言葉を私は常に、真摯に受け止めているつもりです。初心を忘れないことを心に引き締めております。今の身であれば、多くの人からもお言葉を貰うことが多いですが、私がまだ新米だった頂に頂いた一言。それへと勇気づけられた当時の心を忘れないで行動しているつもりです」
「素晴らしい心意気ですね。参考にさせてもらいます」
「ふふっ、若人の参考になれたのなら私も幸せを感じるばかりですよ」
僕とエルピスさんはまず、穏やかな雰囲気で言葉を交わしていく。
「本日は私の護衛役を受け入れてくださってありがとうございます。経験豊富な冒険者であるティエラ様からの協力を受けられ、私としてもほっとしているところです」
「まだまだ若輩であるこの身を使ってくださり、感謝するばかりであります」
「謙虚なのですね……アルカティアは特別な街です」
「そうなのですか?自分がまだ住みだして浅いですが、その土地に生きる人たちが多くの想いを持ち、懸命に生きている街であるように見えています。何が特別なのでしょうか?」
「歴史を知っていますか?」
「申し訳ありません。浅学ゆえに」
「いえいえ、大丈夫ですよ。冒険者の方々の本分は武力によって民を守ることですから。私の方は魔物との戦いを知りません。人には進んできた道というのがあるのです。それで少し、歴史について語りますと、アルカティアはかつて、とある魔物がもたらしていた恵みによって栄えていた街なのです」
「そうだったのですか?魔物……それにしては、自分以外の冒険者を見なかった気がするのですが」
「それも仕方のないことです。魔物によって栄えていた時代は今よりも二百年ほど前のことになりますから」
えっ!?そんなに古いの!?
ちょっと、自分の想像よりも昔の話だったかも。
「二百年ほど前に、アルカティアへと恵みをもたらしていた魔物の姿がぱたりと消えてしまったのです。もちろん、狩りすぎというのもあったのですが……魔物は無からの生まれます。それすらもなくなったのは不可解なことであり、当時は多くの者たちが調査に乗り出しました」
「それで?何か、わかったんですか?」
「いえ、どの調査機関も結論はわからない、という風に公表しました」
「そう、だったのですか」
「ですが、これはあくまで公表されている事実です」
「と、言いますと?」
「事実として、わかっている者が幾つもあるんです」
「……それは、自分に教えていい話なのですか?」
「私がアルカティアへと行く目的にも関わってくるような話です。ここで話しておく必要があるという結論を下しました」
「なるほど、そうでしたか」
とりあえずはまだ、シャリテ教の方が大ピンチを迎えているわけでもないかな?
エルピス様の言っていることが本当であるのなら、という前置詞はつくけど……なんか、随分と面倒くさくて大きそうな話が関わっているみたいだし。
それにしても、既にシオンは聞いている話なのだろうか?
そこもちょっと気になるかも。
「それで公表されていない。本当の話についてですが───」
一旦は内心でほっとしていた僕の前で、本題の、核心部へとエルピスが入ろうとしたその瞬間。
「……ッ!?」
僕は急に膨れ上がった、何か、の力を感じてすぐさま動き出す。
自分が向かうのはエルピス様の方だった。
「きゃっ!?」
いきなり馬車が、この場全体が揺れ出した中で悲鳴を上げるエルピス様。
「私が支えますの」
それを支えようとする自分へと割り込んで、シオンがエルピス様を支えてくれたのを確認した僕はすぐに魔剣グリムを展開。
この振動、何処からともなく急に現れて膨れ上がってきた、この場に吹き荒れている力の源泉が何であるかを知るために僕は辺りを見渡りながら、探知魔法を起動する。
探知魔法は今でも、何か霧がかったようにうまく機能しない。
「下かっ!?」
そんな中でも、僕は視線を下へと向け、慌てて自分の足元に巨大な盾を魔法で作り上げるのだった。
『オォォォォォォオオオオオオオオオオオオオオオオ』
声が、響く。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます