第六章 モブと大司教

方針

 予定が変わった。

 アルカティアに元々いた魔物について調べ、街の再興に繋がるものがないかを探すはずだったのに、いつの間にか事態は最終局面へと入っていた。

 僕たちはアルカティアへとやってくるイミタシオン教の高官に面会することとなってしまったのだ。

 いきなりの最終局面。まさかの、イミタシオン教の高官自らが、この街へと参戦となる……いや、こんなの想像できるわけがない?

 早々に予定が変わり、頭を抱えたくなってしまっている僕とシオンではあるが。


「この服でいいかな?」


「いいと思いますわよ」


 それでも、既に決まっていることに対して、うじうじと言っていても仕方ない。

 すぐに切り替え、次の局面に対応できるように動いていた。

 今、僕とシオンはイミタシオン教の高官と会うに相応しい衣装へと着替えていた。

 着替えている場所は禿のおっさんであるゴーラスさんが案内してくれた、非常に栄えている街であるコリンイの屋敷の一室だ。

 この街、コリンイにイミタシオン教の高官がおり、自分たちの仕事はここから、アルカティアまでの案内と護衛になる。


「そっか」


 全身鏡の前に立つ僕は自分の姿を確認する。

 僕は今、この世界の貴族が着るような実に華やかでこう、なんかスーツっぽい服を着ていた。

 そんな中で、鏡を見る僕が注目していたのは服、というよりも別のところにある。


「……うーん」


 こう、改めて鏡を見てみると、今の僕ってばイケメンだよね。

 全然実感は湧かないし、本当に鏡へと映っている子が僕であるという風に呑み込めていけないけど。


「何か、問題がありますの?」


「いや、こういうきっかりとした服って、なんか、ちびの僕にはあまり似合わない気が」


「ん?ティエラであれば、何でも似合いますの」


「そう?……そうかも、ありがとう」


 鏡で見る分には結構、良い感じだもんな。

 これが、顔面偏差値の差……?前世もチビだった僕は普通にスーツとか全然似合わなくてショックで倒れていたんだけどな。


「私の方もこれで大丈夫ですわ」


 僕が貴族のような服を着ているのなら、シオンが身につけているのはドレスである。

 戦闘も可能なよう、フリフリなドレスではなく、スタイリッシュな感じの黒いドレスだった。


「うん、似合っているよ」


 シオンはスタイル抜群で、背も高いモデル体型。

 こういう格好は間違いなく似合っていた。顔面偏差値も素直に、暴力的だし。

 めちゃくちゃ綺麗だし、めちゃくちゃカッコいい。


「ありがとうですわ……ふふふ。貴方だけからそう言われるのは本当に嬉しいですわ」


「それなら良かった」


 やっぱり、女の子は褒めた方が良いんだねっ!

 前世の幼馴染はとりあえず、女の子は褒めておけっ!とアドバイスをしてくれていた。


「さて……これで、もうこの後はイミタシオン教の高官に会うこととなるのか」


「えぇ、そうですわね……どうしますの?」


「どうにか、出来そうなら動く。何も出来なさそうなら静観する……くらいしかなくないかな?あまりにも敵が強すぎる。少し、動くだけでに大事になっちゃうと思う」


「えぇ、そうですわね」


 僕の言葉にシオンは頷く。

 

「確かに……そうですわね。現状としては、後手と言ってしまってもいいような状況ですものね。そうするしかない、というところでしょうか」


「そうだね。向こうがこっちの情報をどこまで持っているのかも知らないし……どうあっても、相手の出方次第になるしかないかも」


「そうですわよね。何時でも、辺り一面を吹き飛ばされるような魔法を撃てるようにスタンバイしておきますわっ!」


「うん。その時は僕も一緒に巻き込んじゃっていいよ?」


「それは無理ですわ」


「……そう?一緒に消し飛ばしてくれた方が、僕も血液魔法を使用しやすくなって便利なんだけど?」


「それでも、無理ですわ。ティエラに魔法を向けるなんてこと、出来るわけもないですわ」


「なら、仕方ないかー」


 いくら回復するから!と言っても、仲間に対して魔法を叩き込めないよね。

 僕も逆の立場だったら無理だし。

 これは仕方ない。

 

「それじゃあ、ゴーラスさんの元に戻ろうか。着替えの間、ずっと待たせちゃっているし」


「そうですわね」


 二人で本当にざっくりとした、無策ともいえるような方針を固めた後、僕とシオンは広い更衣室を出ていくのだった。

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