評価
声と共にゆっくりと一人の男性。
「……」
そちらの方に視線を送る僕は眉を顰める。
自分たちの元に現れた男性。
それは、イミタシオン教の神服をその身にまとった禿の中年男性であり、その手には一振りの巨大な杖が存在していた……その杖から膨大な力を感じ取ることが出来る。
まず、間違いなく、今もゴブリンたちをひき潰している光の腕を生み出しているのは杖によるものだと、思う。
禿のおっさんからは別に何か、強さというものを感知できるわけじゃないし。
「たったお二方で、よくぞここまで持ちこたえてくださいましたな。おかげ様で、我々イミタシオン教が持つ切り札の発動が間に合いました」
「それでしたら、良かったです」
「流石はお二人ですね。我らの耳に届く噂通りです」
「……どんな?」
イミタシオン教の、僕の評価。
それ以上に怖いものはない……聖女であるレトンなんて僕のことを神様扱いしてくるしぃ。
ここで不敬を理由にして、僕が斬り裂かれてもそこまで文句を言えるわけじゃない。
「迷宮都市においても、圧倒的な活躍を見せた若くして名声を高める新進気鋭の若手冒険者と下野してきた元大国の公爵令嬢。それはもう素晴らしいポテンシャルと現在の実力も持ったお二人であるという風に聞いていますよ」
「……それだけですか?」
「んっ?えぇ、そうですね」
疑り深い態度を見せる僕に対して、禿のおっさんは素直に頷く。
まだ、レトンの凶行は上にまで届いていない……いや、純粋にもう彼女も心を切り替えてくれたのかも。
冷静に考えればわかるもんね。僕が神様じゃないことなんて。
「いやはや、そんなお二方の実力を見込んで、一つ、依頼をさせていただいてもよろしいでしょうか?」
「依頼、でしょうか?」
今も光り輝く手がゴブリンをひき潰しているような状況で一体、何の話をするというのだろうか。
明らかに雰囲気としてはのんびり、お話をするようなタイミングではないと思うんだけど。
「実はですね。イミタシオン教の高官がアルカティアへとやってくることが既に決まっておりましてな。その護衛役を是非ともお願いしたいのです」
「……護衛役ですか?」
何で、そんな話がいきなり来るの?
僕は話があまり呑み込めず、シオンの方に視線を送る。
「何でですの?イミタシオン教ともなれば、護衛役を用意することくらい簡単のはずですわ」
そんな僕の視線を受け、シオンが自分の代わりに口を開く。
「えぇ、その通りですが、現地に詳しい人たちも欲しいのですよ」
「現地に詳しい人たちの方も、イミタシオン教なら簡単に見つけられるはずでしょう?何故、私たちに話を、ですの?」
「ですので、こうして、話を申し付けているのです。お二人以上の適任はございませんでしょう?アルカティアを長年悩ませていた依頼の数々を解決し、ここでも圧倒的な力で街ばかりか、国を救ったと言ってもおかしくない活躍をなされていますから。それに、何よりも実に見た目麗しいですから。そこも重要ですよ」
「……」
「なるほど……」
確かに、シオンはめちゃくちゃ美人だもんね。
でも、シオンに見た目麗しい護衛を求むようなエロ爺とか近づけたくはないんだけど。
僕は禿のおっさんの言葉に頷きながらも、ただ、表情では眉を顰める。
「もちろん。その見た目ゆえの特別な接待等を求めることは致しませんのでご安心ください。純粋にイミタシオン教の高官が若く身麗しい方を連れて歩いている方が好意的でしょう?」
「……」
そんな単純なのかなぁ。
「まぁ、そうですわね」
単純らしい。
「しかと、報酬は出しましょう。如何でしょうか?」
「依頼の、時期はいつですの?」
「もうすぐですよ……というより、このまますぐに私と共に我らが高官の元へとやってもらいたい話ですね」
「本当に急な話ですのね」
現状を振り返っておこう。
僕は今、アルカティア内においてシャリテ教の存在を許容できるような状態にしたいわけである……だが、そんな中でイミタシオン教の高官が街にやってくると来た。
かなり頭の痛い話……何なら、リベロオール男爵閣下は僕とシオンを遠ざけ、強引にシャリテ教を皆殺しにする可能性もあると思う。
イミタシオン教の高官が来るのに、シャリテ教を潰せないまま、というのは嫌だろう。
とはいえ、僕が魔法でシャリテ教を守るような仕掛けはしてある……だから、多分問題ない。
となれば、僕たちがするべきは敵を知ることかな?情報は大事だ。
「僕はお受けしたいと考えていますね……シオンはどうかな?」
「私はティエラについていくだけですわ」
「承知いたしました。それでは、そのように……感謝を申し上げます」
僕とシオンの言葉に禿のおっさんは笑顔で頷く。
「一応、自己紹介を。自分はティエラ。そして、隣にいるのはシオンにございます。よろしくお願いいたします」
「おぉ、これは丁寧にどうもありがとうございます」
「それで、禿の神官様はそのお名前を何ていうのですか?」
「んごっ!?……ゴースラにございます。以後、御見知りおきを」
そして、そのまま禿のおっさん、ゴースラは僕の言葉に従って自己紹介をしてくれるのだった。
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