緊急事態
洞窟の中から大量に出てきているゴブリンたち。
「……ッ!」
それを前に、僕はほぼ反射的に魔剣グリムを手に持って、巣穴の方に突撃していく。
巣穴から大量に湧き出てくるゴブリンを僕は淡々と魔剣グリムで斬り裂いて、斬り裂いて、斬り裂いていく。
「……いや、無理っ!?」
洞窟の入り口はそこまで大きくないことから、出てくるゴブリンの数はそこまで多いわけじゃないのだが……それでも、無限に出てくる。
大量に、永遠とゴブリンが洞窟から出てくる。
どれだけが僕が魔剣を振るおうとも、間に合わなくなりそうなくらい大量に出てきている。
「ティエラっ!これから、どうしますのっ!?」
「……どうしようっ!?」
洞窟の入り口の前に立ち、剣を振るい続ける僕は自分の手を止めたその瞬間にノンストップで溢れ続けてくるゴブリンの波を止めることが出来ず、一気に拡散していってしまうだろう。
「て、ティエラはそのまま戦い続けられますの……?」
「いや、うん……まぁ、何とか」
とはいえ、止めなければいいだけの話で、魔剣グリムによって回収する魔力より無限に回復し続ける僕はこのまま一週間でも、一か月でも全然戦える。
「……ただね」
大量に詰みあがっていくゴブリンの死骸と、それを貪り食らいながら、突き進んでくるゴブリンの地獄絵図。
どんどんと変わっていく回りの状況に、洞窟の入り口を殴ってどんどんと広げていっているゴブリンを前に、何処まで僕一人で戦えるのかという問題はある。
「……救援、私の方も緊急の魔法を打ち上げますわっ!」
「ありがとうっ!」
シオンは魔法を発動させ、上空の方に赤い煙を立ち上らせる。
基本的に冒険者はこの魔法による煙で意思疎通を図る……シオンのあげた赤い煙で現状が緊急事態だとはわかってくれるだろう。
「さぁーて」
となると、これは僕がどれだけ一人で戦い続けられるのか、という話になってくるのでは?
「シオン」
「何ですの?」
「シオンは一旦、待機しててくれない?魔力の温存をしておいて欲しい。何かあってもいいように」
「……わかりましたわ」
僕はシオンにお願いを告げた後、一人でゴブリンたちを前に剣を振るい続ける。
現実世界で確認は出来なかったが、ゲーム内では一応レベルという概念があったはず……あまり、レベルの存在を感じ取った記憶はない。
けども、この大量のゴブリン討伐によって自分のレベルが上がって強くなると信じて剣を振るい続ける。
■■■■■
そして、そんな僕が戦いを続けて早いことでもう一週間経過した。
「……」
いや、長くね?
僕はもう何体倒したよ。
既に洞窟の入り口は当初の五倍に膨れ上がり、出てくるゴブリンの数も五倍。
僕の動きも五倍。
吐きそう。疲れた。体は何も疲れていないけど。
「ふぅー……」
既に洞窟から出てくるゴブリンの種類も増え、ただの弱いゴブリンだけでもなくなっているせいで、気を抜くと普通に敗北しかねない。
僕は自分の注意力を高めながら、ゴブリンを向き合い続ける。
「……ふふふ」
その後ろで、何が面白いのかシオンたまにご飯を食べに行くときはあれど、基本的には僕の後ろ姿を眺めて笑みを漏らし続けていた……なんかさ、シオンってばちょっと壊れていない?大丈夫かな?
一体、何の時間なんだろうか?
僕は若干の虚無感も抱きつつ、ゴブリンと戦い続ける。
「……ッ!?」
そんな中で。
「えっ?はっ?」
僕の隣に大きな穴が開く。
「ぎゃぎゃ」
そして、その穴から顔を出すのは一匹のゴブリンだ。
「……」
「これは……ッ!」
空いた穴は、僕の隣だけじゃない。
至るところから、ありとあらゆるところから、地面に穴が開いてゴブリンが溢れ出てくる。
「ぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃ!」
「ぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃ!」
「ぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃ!」
「ぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃ!」
「ぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃ!」
さっきまでは、大量のゴブリンが洞窟の入り口から出てきてくれていたおかげで何とかなっていた。
でも、今はどうだろう?
何処からでもゴブリンが出てきている……それを、たった一人で止められるのか。シオンが戦いに参加したくらいで事態は変わるのか。
「……もう、無理じゃね?」
僕はぼそりと、弱音を漏らすのだった。
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