ゴブリンの巣穴
レビスタとその姉に関してはまず、孤児院の方でしっかりと再会をかみしめてもらうのが良いだろう。
それよりも、僕たちに関してはゴブリンの巣穴の対処を行分ければならない。
「ここか……」
僕とシオンは今、解放されたレビスタの姉に顔も見せないままにリベロオール男爵閣下から教えてもらったゴブリンの巣穴があると思われている場所へとやってきていた。
「確かにあるね」
森林の中に佇む大きな洞窟。
そこにゴブリンの姿はないが、それでも、ゴブリンがこの周りを頻繁に動いているという痕跡は確かにあった。
間違いなく、この洞窟の先にゴブリンの巣穴が出来上がっている、と思う。
「そうですわね……問題は、どれだけ増えているのか、だけど」
「……ダメだね、これは」
僕はシオンの言葉に対して、首を振って答える。
「僕の魔法でゴブリンの数を感知できない。確実に、妨害魔法を行っているゴブリンがいるね」
ゴブリンには数多くの種類が存在している。
何のとりえもない唯のゴブリン。体がゴツくて大きなハイゴブリン。魔法を得意とするマジックゴブリン。回復を得意とするヒールゴブリンなどなど。
これだけ上げても、全部では全然ない。
実に多種多様な種類がいる。
その中で、ゴブリンが大量発生していることを示すゴブリンの種類がある。まずは王たるゴブリンキング。
そして、ゴブリンの数を周りへと悟られないようにする特殊な魔法を扱うシャドーゴブリンだ。
「……問題は数だね」
僕が数を把握できないということは、間違いなくシャドーゴブリンがこの洞窟の中におり、大量発生も既に起きてしまっている。
その中で、気にしなきゃいけないのはどれだけゴブリンがいるか、だ。
「そうですわね」
そんな僕の言葉にシオンも頷いてくれる。
「でも、とりあえずはリベロオール男爵閣下の方に報告をするところからかな。出来るだけ早く、応援を要請しないと」
「えぇ、そうですわね」
僕は魔法で伝書鳩を作り上げ、その足に一筆したためた書を括りつけて、空へと放つ。
この鳩は僕とは一切関係なく、自動的に目的へと向かってくる。
これでしっかりとリベロオール男爵閣下の方に現状を伝えてくれることだろう。
「毎回思うけど、本当に便利ですわよね。何も持ってきていない状態から簡単に報告が出来るんですもの」
「便利。それが僕の追及するスタイルの一つでもあるからね」
器用貧乏の道を進んでいるのだから、せめて便利だなぁ、くらいには思っていてほしい。
「さて、それじゃあ、そろそろ本題の方に向き合っていこうか」
「そうですわね」
僕はシオンと共に洞窟の方へと視線を向ける。
「どうする?このまま援軍が来るのを待ってもいいけど……」
「……難しいですわ」
一番の安全牌を取るのであれば、ここで何もせずに援軍を待つことだ。
「事態が一刻を争う可能性もありますわ」
「そうなんだよねぇ」
でも、その結果としてゴブリンの数が激増して、どうしようもない事態にまで行ってしまう可能性もある。
ゴブリンの大量発生が末期の状態にまで進んでいた場合、ほんのわずかな時間でもネズミ算式にとんでもない数となってしまう可能性が非常に高い。
「どうしようか……」
「うぅん……」
ここで何をするのが最善手か、それは中々に難しいところもあった。
「ぎゃぎゃ」
そんなことを僕とシオンが考えていた中で。
「「……ッ!?」」
いきなり洞窟の中から一匹のゴブリンが現れる。
「……は?」
そんなゴブリンが何をするのか、僕とシオンが注視し始めた中で、そのゴブリンは一切迷うことのないスムーズな動きで一つの大きな貝笛を取り出す。
そして。
ブォォォォォォォォォォオオオオオオオオオオオオオオオオオオォォォォォ───。
法螺貝が吹かれた。
これから、戦でも始まるかのような、幾たびも時代劇で見たものが今、前に。
「……ッ!?」
本能が警鐘を鳴らし、全身の毛が逆立っていく感触を覚える。
「燃えろっ!!!」
だが、そんな中でも僕はすぐに行動を開始。
一切迷うことなく魔法を発動させて、火炎放射を照射して洞窟を一気に焼いていく。
そして、それと共に魔剣グリムを己の手に顕現させる。
「ぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃ!」
燃え盛る火炎放射。
だが、それを突き破るように、炭へと成りかけているゴブリンの死骸を持ったゴブリンが続々と洞窟の穴の中からその姿を現し始める。
「こ、これはっ!?」
「はぁぁぁぁぁあああああああああああああああああああっ!?」
間違いない。
たった今、目の前で、ゴブリンの大量発生が動き出した。
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