方針

「んぐっ」


 変わり身が早すぎるとシオンから言われた僕は言葉を詰まらせる。


「私たちの目的はシャリテ教を救うことですわ。この街を救うことはないですの」


「い、いや……でも、こっちの方にも事情があったわけでさ。それを無視するのも難しくない?」


「二兎を追っても成功はしないですわ」


「でも、街の問題も解決しないと、結局のところ、孤児院の問題も解決しないじゃんっ」


「だからと言って、両方を追ってどうしますの?二つの話は平行線ですわ。その二つを共に救うなんて無理ですの。それでも、何ですの?大々的にイミタシオン教と敵対するつもりですの?」


「イミタシオン教と敵対しなくても、この街そのものを盛り上げることが出来れば、良くないかな?」


「そんなこと出来ますの?」


「……」


「別にシャリテ教を救うだけであれば、何とかなりますの。私たちが手出しできないような状況を用意するだけですわ。元々として、あの孤児院は複雑な状況に身を置かれていますの。街が沈んだところで状況は変わりませんわ」


「で、でも……」


 あんな話を聞いた後に、無視なんて……。

 領民のことを考えているいい人そうだったし。


「流されやす過ぎですの……その場、その場で周りに流されて意見を変えすぎですわ」


「うぐっ……」


 それを、言われるとぉ……うぬぅ。


「……魔物が、この街を潤わせていたという魔物が現れなくなっちゃった理由って、何なんだろう?」


「それを知ってどうするんですの?」


「この街そのものを盛り上げるとしたら、その魔物関連しかないと思うんだ。さっきの話だと、その魔物が一体何なのかもわからなかったから……可能性があるとしたら、ここだけだと思うんだ」


 一つの産業に縋り続けるのは難しい。

 それでも、その縋れる産業がなくなった後にゼロから再興するのは不可能に近い、と思う。ナウルの例とか見ても。

 結局のところ、再興するのであれば、一つの産業に希望を見出すしか……。


「ちょっと、調べてみてからで、良いかな?」


「本当に、意味はあるんですの?」


「あるよ。少なくとも、この場での話はスムーズに進められるでしょ。何もなしでお金だけ渡して、シャリテ教の話は終わり!というわけには向こうだったいかないでしょ?自分たちも動きますよ!というアピールをすることで、向こうとも話をまとめやすくなると思うんだよね。譲歩の姿勢を見せることも悪いことばかりじゃないと思うんだ」


「……一理はありますわね」


 僕の言葉に対して、シオンは若干呆れながらでもあるけど、頷いてくれる。


「わかりましたわ。うちの方針はそうすることにしますわ。私たちとしてもこの街を盛り上げるために動くということを明言すると共に、イミタシオン教からの圧力が減るようにレトン経由で話をつけておきますわ、ということで話を進めていくのが一番ということで」


「ありがとうね、僕の我儘に付き合ってくれて」


 両方を追いかけるなんて、難しい話だとはわかっている。

 それでも、追いかけたいのだ。


「良いですわ。ティエラのこれは今に始まったことじゃないですもの。お人好しでティエラの隣に立ち、支えられるのは私だけですから。ずっと、私だけがティエラを支え続けますわ」


「うん、ありがとう」


 へへ、シオンがそう言ってくれるのは嬉しいな」


「……」


 た、だだぁ……。


「ね、ねぇ、シオン」


「何ですの?」


「も、もうお家の方が許された、って本当なの?」


 これまでは色々と話すことがあったから、あまり切り出せていなかった事実。

 話の途中で飛び出してきたシオンがもう家から許されているという驚愕の事実に対して、僕は言及する。


「それがどうしたんですの?」


「その、家に帰れるのに……僕と一緒に居てくれるの?」


「~~っ」


 す、捨てられやしないだろうか……。


「ここでも優柔不断なところ見せちゃったしぃ」


 優柔不断な男は嫌われると聞いたことがある。

 と、思うと僕は最悪なんじゃ……。


「そんなことはありませんわっ!」


 なんてことを考えた僕の手をシオンは手に取って、顔を近づいてくる。


「おぉう……」


 一気に綺麗なシオンの顔が近づいてきた僕は己の顔が熱くなっていくのを感じながら、自分の顔をのけぞらせる。


「私は絶対にティエラを捨てませんの。もう、二度とそんな心配はしなくていいですの」


「そ、そう、ありがとう」


 こ、ここまで力強い言葉で言ってくれるとは思っていなかったけど……そう言ってくれるのは嬉しいな。

 シオンが結婚したりして、関係性が変わったとしても、それでも、仲間としての関係は保ち続けたいなぁ……。

 それにしても、彼女いない歴=年齢の僕は今世で結婚出来るだろうか……今世の両親からは結婚しろっ!って、旅へと出る前に言い聞かされていたけど。


「えっと」


 いや、こんなことを考えている場合でもないか。


「それじゃあ、リベロオール男爵閣下の方を呼びましょうか。自分たちの考えを伝えなきゃですし」


「あっ、次の交渉は私がしますの。パッパと話を進めるなら、私の方が良いですわ。向こうは、ティエラが底抜けのお人好しであることも多分知っていますわ。付け入られますの」


「えっ」



 ■■■■■


 新作です!良ければ見てくれると嬉しいです!

『狂愛は誰が為に~自分の妹が己への愛を拗らせ過ぎて人類の敵になったのだが、一体僕はどうすればいいですか?~』

https://kakuyomu.jp/works/16818093084439482187

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