事情

 自分たちの事情をすべて知り、情報分野においては自分の浅はかな発言による推察だけで大きくリードしていたリベロオール男爵閣下が告げるのは億たちに対する懇願の言葉だった。


「……何でしょう?」


 思ったよりも下手に来たリベロオール男爵閣下に対して、最初は変な声を返してしまったものの、それでも、すぐに立て直して口を開く。


「我が街の現状について、まずは説明させてください」


「お聞きしましょう」


 うーん、なんか、僕の方が偉そうになっていない?

 大丈夫そ?


「私が治めているのはこの街と、その周りにあるいくつかの村々だけにございます。それでも、男爵家としてはこの街の規模はトップクラスと言っても過言ではないでしょう。この街は当初、冒険者の街として隆盛を極めていたのです」


「……」


 まるで、その影はないけど。


「この街の近くにある森にはとある貴重な素材を落とす魔物が多く生息しておりましてね。ですが、冒険者たちの勢いによってその魔物が絶滅……魔物は生殖行為による繁殖だけではなく、何もないところから突然現れることもある、摩訶不思議な生命体を持つ存在です。それでも、一度、滅んでから彼の魔物があの森で再度現れることはありませんでした。それゆえに、その魔物目当てでやってきていた冒険者の数は激減。それと共に街は廃れていったのです」


 魔物、その魔物は一体何だろう?

 後で調べておこうかな。

 この街で有名になった魔物なんて、僕は知らないなぁ……ゲームにも出てこなかったと思うし。

 これは何年前の話なんだろう?


「一度、栄えたゆえに街の住民の数はかなりのものになっていました。冒険者は去っても、街に移住し、定住していた者たち。そして、その子孫はそう簡単に街から去れませんでした。廃れ行く中で、その者たちは農業を始め、何とか自分の日銭を稼ごうと動いています。その道は、決して楽なものではありません。非常に厳しい道のりでした。現在に至るまでのその道の中で街は衰退を続け、多くの浮浪者を生み出してしまっています」


 いや、でも、基幹産業がごっそりと消滅した中でも、今の今まで残っているのは凄いんじゃ?


「そして、そんな道のりの中で、街の崩壊を直前に迎えたのが私の生まれた頃である五十年ほど前。長く続いた日照りによる大飢饉の際です。その際に街は滅亡寸前。すべての領民が餓死するのではないか、という状況に追い込まれました」


 ……耐えてなかった。


「その私たちに手を差し伸べてくださったのがイミタシオン教なのです。私たちの街を支えた魔物の数が激減したその苦しい時より、街の方に根付き始めたその宗教は最悪の時にも離れず、我々を救ってくれたのです」


「なるほど」


 そこで、イミタシオン教の方と繋がってくるわけか。


「私たちの街は、領民を守るためにもイミタシオン教から離れることが出来ないのです。現在もなお、私の街はイミタシオン教から多くの資金援助を受けております。その中で、我々はイミタシオン教へと頭が上がらないのです」


 あぁ……話が見えてきた。


「そのイミタシオン教が我々に要求しているのがシャリテ教の排除です。イミタシオン教は他の神を信奉する宗教を認めることはなく、苛烈な対応を取ることで有名です。そして、それがシャリテ教にも、向いているのです。私とて、街より長く根付くシャリテ教を叩き潰すことは肯定的じゃございません。それでも、街の為にはシャリテ教を排除する他ないのです」


「なるほど……」


 これは、思ったよりも難しい話なのかもしれない。


「これらの事情を話した上で、私よりお願いを申し上げたいのです……どうか、我々の領地に助けを頂けないでしょうか?」


 うなぁー、ただの一冒険者なんだけど、僕ってば。


「……少し、退出してもらっても?シオンと二人で話したいことがありまして」


 そう思いながらも、僕はとりあえずそう告げる。


「承知いたしました」


 そして、そんな僕の言葉に従って、リベロオール男爵閣下は何も言わずに退出してくれる。


「どうしようか……コッチの街の方もかなり大変そうだし、何とかしてあげたいんだけど……」


 そんな中で、僕はシオンへと声をかけるのだが……。


「えっ?変わり身が早すぎませんこと?」


 そんな僕の言葉に対して、シオンは呆れたような声を上げるのだった。

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