門番

 早く行こうとまくし立てる僕。

 そんな自分に従い、あの後すぐに僕はシオンとレビスタの二人と共にこの街の領主の屋敷へとやってきていた。


「え、えっと……」


 この街、アルカティアはそこそこの規模を持った街ではあるものの、何か際立ったものは何もない地味な街である。

 基本的に街の人たちは街を守るための城壁の外に作られた畑で農作業を行って自分の食い扶持を稼いでいるような状況であり、街と言いつつ、その形は規模の大きくなった農村という感じだ。

 当然、農作業を行える畑はそこまで大きくないので、農業を行うことが出来ずに浮浪者となっている者たちもかなり多く、貧困にあえぐ人の数も一般的な街よりもはるかに多い。

 それに、普通に農作業を出来ている人たちもそこまで稼げているわけじゃない。

 本当に、街の魅力というのが目ぼしいのところなのがここ、アルカティアだった。

 そんな街と同じように、その領主の屋敷も特に際立ったもののない地味な屋敷だった。

 

「ど、どう……どう」


 だが、その屋敷に気圧された様子を見せるレビスタはどう動くか悩んでいる様子を見せていた。


「レビスタ。交渉に関してはこっちに任せてもらってもいい?」


 そんなレビスタへと僕は声をかける。


「えっ……?」


「多分だけど、貴族との交渉事に関してなら、僕たちに任せてくれた方がうまく行くと思うけど、自信がないなら頼ってくれてもいいよ?」


「そうですわ」


 シオンとか公爵令嬢だったからね。

 この街の当主である男爵家とはまるで格が違う。交渉事に関してはこっちに任せてもらった方がはるかに円滑へと進んでいくと思う。


「そ、そこまで頼るわけには……い、いや、でも、素直にお願いするわ。私は、ちょっと自信がないわ」


 一旦は断ろうとしたレビスタだったが、その脳裏に姉のことが浮かんだのか、すぐに言葉を撤回して、自分に頼る旨を告げる。


「うん、任せて」


 僕はそんなレビスタの言葉に頷いた後、その視線をシオンの方に向ける。


「任せますわ。結局、私は女ですわ」


「……そうだね」

 

 この世界には残念ながら、男女差別の価値観がまだ未だに根強く残っている。

 自分が公爵令嬢であると語るわけにもいかないシオンが出るよりも、僕が前に立つ方がギリギリいいかな。

 これでも、僕は割とシオンたち以外の貴族にも結構関わりが強いし。


「それじゃあ、僕が」


 僕は後ろにシオンとレビスタを連れた状態で、屋敷の門の前に立つ門番の元へと向かっていく。


「少し、良いでしょうか?」


「……?何か、自分にご用でしょうか?」


「ちょっと、この街のご当主様にお目通しをお願いしたくてですね。今から、ご当主様に会うことは出来ますか?」


 いきなり当主に合わせてくれ、と告げる僕に対して。


「貴方は……ここ最近、話題になっている冒険者の方々ですね?その活躍ぶりは知っておられますが、いきなり領主様に合わせてくれというのは……」


 門番はこちらが何者であるかも知った上で、いきなり会うことは出来ないという実に常識で至極当然の答えを返してくる。


「シャリテ教だよ」


 それに対して、僕の方も負けじと言葉を返す。

 さて、と。どれくらいの知名度があるのだろうか?


「……ッ!?」


 期待と共に待っていた門番の反応。

 それはかなり如実だった。

 明確に門番の表情が歪み、驚愕と困惑の息が僅かに漏れ出す。


「呼んできてほしいのですが?無理でしょうか?」


 思ったよりも、シャリテ教のことは知れわたっているのかもしれない。


「……承知いたしました」


「ありがとうございます」


 そんなことを考える僕に対して、門番の方は渋々という表情は見せながらもこちらの言葉に頷いててくれるのだった。

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