金稼ぎ

 孤児院が一方的に押し付けられた身に覚えのない借金を返すためのお金を僕とシオンは宿代として稼ぐ必要がある。


「そっちに行ったよっ!魔物」


「確認しましたわ。さっさと潰しますの」


「あざっ!」


 最初は冒険者のほとんどいないこの街でそんな金に繋がるような依頼を見つけられるのかと思っていたのだが、全然そんなことはなかった。

 この街はほとんど冒険者がいないからこそ、塩漬けされたずっと残されている高額報酬のある依頼が大量に眠っていたのだ。

 これらを処理していくだけである程度のお金は稼げる。

 

「はい、これでドラゴン討伐っ!っと」


 僕の剣によって翼を断たれて地面に落ち、シオンの魔法を受けて、頭を潰された魔物を前にして、僕は不敵な笑みを浮かべる。

 これで、あの街の近くの森に巣を作り、辺りの農地を荒らしていた厄介者のドラゴンは討伐である。

 

「お疲れ様ですの。それにしても、割と楽でしたわね」


「まぁ、はぐれ者のドラゴンだしね」


 ドラゴンと言えば、地球での妄想通り、異世界で最強格の種族だ。

 だが、今、僕たちが倒したのは弱すぎて群れを追われ、仕方なしに人間の農地に襲撃仕掛けて野菜を食べるしか能のない弱いドラゴンだった。

 これくらいであれば、そこまで苦戦することはない。

 まぁ、それでも普通に強いから、ずっと残っていたんだけどね。

 これは単純に僕とシオンが強いという話でもある。


「それにしても、これで金貨五枚か。割と余裕だね」


 この依頼の報奨金だけで、金貨は五枚。

 ドラゴンの素材等を売れば、更に金貨が積みあがるだろうし、全然借金を返すだけの金を稼ぐの楽勝感がある。

 ちょっと、ドラゴンの素材を捌くのは時間がかかるだろうから……こいつを借金返済に使えるかはわからないけど、一つの依頼だけで十分の一は稼げるわけだからねっ。

 いい感じだ。


「そうですわね……えっと、今、いくら持っているんですの?」


「んー?僕たちの全財産?それなら……えっと、金貨にして考えるのなら五百枚くらいかなぁー?白金貨にしているのもあるけど」


「えっ……?」


 この世界の硬貨は鉄貨、銅貨、銀貨、金貨、白金貨の五つの種類がある。

 これらを日本円に換算すると、鉄貨が十円。銅貨が百円。銀貨が千円。金貨が十万円。白金貨が一千万円。虹金貨が一億円となる。

 僕は白金貨を五枚持っているので、財産としてはまず、五千万。

 そして、他にも金貨が数枚とか。

 

「そ、そんなにお金を持っていたんですの?」


「まぁ、一応、僕たちはトップクラスの冒険者なんだよ?割とあるよ」


 冒険者って結構稼げるからね。

 あまり舐めないでほしい。


「そうだったんですの……」


「だから、別にもっとシオンとかも何か欲しいものがあれば言ってくれていいんだよ?」


 今、僕たちのパーティーの金管理は自分が行っている。

 貴族令嬢であるシオンは金管理を部下にやらせてきており、自分でやっても上手く出来る気がしないから、と完全に僕の方に任せてきているのだ。


「別に良いですわ。私は今のままでも十分ですの」


「それなら、良いけどぉ……」


「それにしても、それだけあるのなら、依頼とか受けなくとも返せるんじゃないですの?」


「いや、白金貨だから……」


 白金貨を使えるところというのはそこまで多くない。

 お店で見せても、使用を拒絶される。大きな国営の両替商に行って、崩してもらわないと使えない。

 白金貨も、虹金貨も、あくまで資産という形で持っていることがほとんだ。

 領主への借金を返すのに使っても、嫌な顔されるだけだ。

 別にそこら辺の領主とか、大量の現金を所有しているわけじゃないし。彼らは土地とか、建物とか、そこら辺の資産がほとんだだからね。


「僕たちは将来、何があるかわからないような仕事だからね。将来の為の貯蓄は必要でしょう……まぁ、結構使っちゃっているけどぉ」


 世界中に家を持ちたい、とか割と頭おかしな夢だからね。

 いやぁー、でも、世界中を気楽に飛び回って、その日は愛しき我が家で眠るというのは夢だよねぇ。ホテルとかがあまり好きではない僕としては。


「確かにそうですわね……人生、何があるかわかりませんものね……」


「う、うん……」


 シオンの発言の切実さがガチだ。


「ま、まぁっ!とはいえ、僕の場合は回復魔法があるしね。それに、聖女であるレトンとのコネもあるし、行動不能になることもまずないと思うよ」


 僕の回復魔法は痒い所にも手が届くようにしている。

 大体の場合に対処できる。


「借金に関してはちゃんと一から積み上げていく必要があると思うよ。白金貨の方は使うつもりないし、金貨の方も結構、アネッロに家を買うのに使っちゃったし。ダンジョン攻略の準備にも使ったよ。だから、そこまで潤沢に使えるわけじゃない。お金稼ぎを頑張らないとねっ」


「えぇ、そうですわね」


「それじゃあ、帰ろうか……よっと」


 僕は自分の背丈の何十倍もあるドラゴンの体を持ち上げる。


「えぇ、そうしますの。今日は出来るだけもう一つの依頼をこなしたいですわ」


「そうだね。街から近いところの依頼もあったし」


 無事に一つの依頼をお昼前までに終わらせた僕とシオンは急ぎ目に街の方へと戻っていくのだった。

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