子供たち

 渋る老シスターのアルメリアに、自分たちへと頭を下げるレビスタの二人がいる中で。


「自分たちも宿を探していたところだからねぇー」


 僕はしっかりと自分の意識を押し通してアルメリアを説き伏せ、宿屋として孤児院を獲得していた。

 そんな僕とシオンが次に通されたのは内陣の奥にある居住区である。

 居住区にあるのはキッチンが併設されている大広間に、トイレとお風呂、それと執務室と倉庫だ。

 それとたった一部屋しかない客室である。

 僕とシオンはこの客室を借りることになる。


「おー!冒険者かっ!やっぱり色々なところに駆け巡るのかっ!?」


「は、はわわわ……」


「まだ若そうなのに」


 そんな居住区の説明を受けた後、僕とシオンはすぐに大広間の方でその場にいた子供たちから囲まれていた。


「君たちに若いとは言われたくはないけどね?」


 この孤児院で暮らしている子供たちは全部で十四名。

 それだけいれば、もうどんちゃん騒ぎである。


「……」


 ものすごい不機嫌そうな表情で大広間の片隅で佇んでいるシオンに対して子供たちは怯えながら近寄らず、僕の方ばかりに集まっているせいで大変なことになっていた。


「なぁなぁ、冒険者ってやっぱり大変なの?」


「まぁ、そこそこに大変だよ。自分の命がかかっているからね」


「お、お兄さんも死にそうになったこともあったり……?」


「んー、僕は回復魔法が得意だからね。致命傷を受けても普通にケロッと治っちゃうから。本当に死ぬ!って思ったことはないかもね」


 あぁ、でも、唯一、魔王と戦ったときは明確に死を意識したかも。

 自分の回復魔法さえもすべて吹き飛ばしていきそうな、そんな強烈な凄みをあの時は感じたな。


「どんな致命傷を受けたんですか?腕が、切れちゃったり?」


「んー、頭が潰れたり」


「「「きゃぁぁぁぁぁぁああああああああああああ?」」」


「全身が魔法で吹き飛ばされて、肉片の一つも残さず消し飛んだり」


「「「はえ?」」」


「待てや、何で死んでねぇんだよ、兄ちゃん」


「回復魔法が得意だからね」


「ずいぶんと便利だな」

 

 僕は自分の周りにいる子供たちと言葉を交わしていく。


「イケメンの兄ちゃん!ちょっと手伝ってくれないか?」


 それにしても、子供たちはどんな環境であってものびのびと元気だね。


「……イケメンの兄ちゃん?おーい!」


「呼ばれているよ?」


 僕が子供たちと会話しながら考え事をしていると、その子供の一人から頬を引っ張られながら、声をかけられる。


「えっ?誰に」


「私だよ!さっきから呼んでいるじゃん!イケメンの兄ちゃんって!」


 それに対して、僕が疑問の声を上げた時、キッチンの方に立っていたレビスタと年は同じくらいで、まだ幼い子供たちの多いこの中だったら年長の少女から声が飛んでくる。


「えっ……いっ!?」


 ハッ!?

 そうか、今の僕は普通にイケメンなんだった。

 

「あぁ、ごめん。ぼーっとしていた」


「しっかりしてくれよ」


「ごめんごめん」


 どうしても前世の価値観を引きずっちゃうんだよねぇ。


「晩飯の手伝いをしてくれよ。レビスタがおばぁの手伝いに行っているから、人手足りなくてよ」


「うん、任せて。これでも僕は料理得意だから」


 始めてくる街。

 そこの孤児院での生活。

 こういうのもいいものだね!なんてことを考えながら、僕は料理のお手伝いをしていくのだった。


 ■■■■■


 元気いっぱいな子供たちはすぐに大広間の方でみんな仲良く雑魚寝している。

 子供たちが寝た後もまだ、自分たちが寝るには早い時間帯だったこともあって、僕とシオンは共に夜の街に繰り出して、この時間帯でもまだやっていた屋台の食品と酒を買って外の方で軽く晩酌を楽しんだ。

 そして、それから帰ってきた後。

 

「いやぁー、元気な子供たちも夜、寝てしまえば静かなものだね」


「えぇ、そうですわね」


 僕たちは大広間で眠っている子供たちの様子を少し確認した後、すぐに自分たちが貸してもらった客室の方に向かっていた。


「あー、ベッド一つかぁー」


 夜寝るときになった初めて扉を開けて、中を確認した客室。

 そこは想像よりも度綺麗にされた部屋だったが、代わりにベッドが一つしかなかった。


「じゃあ、僕が床で寝るから、シオンはベッドで寝ててよ」

 

 こればかりは仕方ない。

 僕が大広間の方からまだ余っていたはずの布団を取りに向かおうとしたその瞬間。


「駄目ですわ」


「はにゃ!?」

 

 僕は自分の腕を引っ張られ、そのままベッドの方へと転がされる。


「一緒に寝ますわ……マーキングし返さないと。匂いも私のものですわ」


 そして、僕が転がされたベッドの方にシオンも、何かをぶつぶつと言いながら、もぞもぞと入ってくる。


「えっ!?いや、流石に一緒に寝るのは……」


 一応年頃だよ?僕も、シオンも。


「嫌ですの?私と寝るのは」


「いや、そんなことは別にないけど」


「じゃあ、問題ないですの。さっさと布団の中に入るですの」


「ちょちょっ」


 僕は有無を言わせないシオンの手によって布団の中へと押し込まれる。

 これで僕とシオンは同じベッドで、同じ布団にくるまれていることになる。


「それじゃあ、おやすみないですわ」


「お、おやすみなさい……」


 えっ……?眠れそうにないんだけど。

 

 ……。


 …………。


「すぅ……すぅ……すぅ……」


「めちゃくちゃ気持ちよさそうに寝ている。私はドキドキして一切眠れていないのに……もう、みんな寝てるわよ、ね?」


 ベッドに入ってから十分足らずで熟睡し始めたティエラを前に、シオンはドキドキを隠せないながらもそっと、己の罪悪感を少しでも薄めるために彼から視線を逸らして夜を過ごすのだった。

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