孤児院
自分の財布をスッた少女のことを助けようと、まずは彼女の話を聞くため、僕たちは今、移動している最中だった。
あんな道中で話を聞くようなものじゃない。
とりあえず、少女が暮らしている今の家に行こうということになったのだ。
「ねぇ、僕の財布返してくれない?」
そんな道のりの中、少女の後に続いて進んでいる僕は自分の隣に立っている少女へと疑問の声を投げかける。
「ん?財布でしたら、新しいのを買ってあげますわよ?」
「えっ?あっ、うん、ありがとう」
いや、何で?
返してほしいんだけど……?何で今、新しい財布の話が?
思わずお礼を言ってしまった僕であるが、その内心で首をかしげる。
「ついたわ」
なんてこと僕が考えている間に、少女の方が先に足を止めた。
そのせいで財布の話も流れていく。
「ここが?」
足を止めた自分たちの前にあるのはずいぶんと寂れた様子の教会だった。
「そうよ。ここが私の暮らしている孤児院よ。ここで私は数人の子供たちと暮らしているの」
「なるほどね」
僕は少女の言葉に頷きながら、既に扉が壊れて常に玄関口が開きっぱなしになっている孤児院の中へと入っていく。
中は普通に何処にでもあるような教会を老朽化させて寂れさせた感じである。
「何処か、適当な椅子に座って頂戴。今、おばぁを連れてくるわっ」
「うん、ありがとう」
少女の言葉に頷いた僕はシオンと共に、一番祭壇のある内陣に近い前の席に腰掛ける。
それを確認した少女は内陣の奥の扉を開けて、奥の方に向かっていく。
恐らくはここの後ろ側に居住区が広がっているのだろう。
「……それにしても」
なんてことを考えながら教会の内装を眺める僕は何とも言えない違和感を覚える。
「ずいぶんと不思議な造りですわね。ここ、明らかにイミタシオン教以外の建築模様で作られていますわね」
「そう、それだ」
この世界において、圧倒的な栄華を誇り、宗教と言えばで唯一、名前があがるような世界宗教たるイミタシオン教。
だが、ここの教会はそのイミタシオン教が掲げる建築模様とは違っていた。
うん、ゲームの方でも、ここまで生きてきた中でも、始めて見るような教会の造りだ。
「今、イミタシオン教以外の宗教ってのある?」
「私の知る限り、アルケー王国にはないですわ。数百年ほど前であれば、別ですけど」
「……古すぎるなぁ」
数百年という歳月は社会を変えるのに十分だ。
現代日本を百五十年くらい前に戻せばペリー来航。
百五十年あれば、日本が近代化して世界有数の列強となって、史上最強国家を相手に大戦争を繰り広げて敗北して焼け野原になり、そこから再び再興して世界二位の経済大国になってから更に三十年も停滞出来る。
「逆に、それほどの栄華を誇る一神教であるイミタシオン教から外れて独自の宗教として進んでいるから、ここの荒れ果て放題の教会になっていると考えも出来ますわ」
「あぁ……なるほどね」
僕とシオンがについて話していると。
「やぁやぁ……お二人さん」
内陣の奥にある空間から、スリを働いた少女に支えられた一人の老婆が自分たちの前に現れた。
「おぉ……大丈夫ですか?」
年としては百歳くらい超えていそうな、そんな雰囲気と顔の皺を持つ老婆の方へと慌てて駆け寄って、その体を少女と共に支えに行く。
「おぉ、ありがとねぇ、客人に」
「いえいえ」
そして、そのまま内陣のところにある椅子の方へと座らせに行く。
「やぁやぁ、お二人さん。私が長年運用している孤児院へとようこそ」
椅子へと座ったその老婆はそのまましゃがれた声で僕たちを迎え入れてくれる。
「この孤児院は、私が生まれたときより仕えているイミタシオン教とは別の神を信仰する……シャリテ教が運用する孤児院ですじゃ、お二人は、大丈夫ですかな?」
おー、やっぱりここはイミタシオン教とは別のところだったんだ。
それにしても、シャリテ教か……本当に聞いたことはない教会だね。
「いやぁ、僕は別に神様とかあまり気にしたことないので」
まぁ、とはいえ、別に僕はイミタシオン教の信者というわけではないので、ここが自分の知らない宗教によって運用されているとかはどうでもいいことなのだが。
「私にとって大事なのは今、ここにあるティエラとの生活だけですわ」
「ほっほっほ。ずいぶんと仲睦まじいようで……」
「まぁ、二人で世界を色々と旅する関係なので。仲良くないとやっていられないよ」
「……」
「じゃあ、ここからはおばぁに次いで、私が話すわねっ」
一番最初の注意事項を話した後、喋るのにも大きな体力を使いそうな老婆の前に出た少女が口を開く。
「まずは自己紹介から。私はレビスタ。それで、こっちのおばぁがアルメリアよ。色々あった初対面だけど、よろしくお願いするわ」
そして、そのまま少女、レビスタは自己紹介を行うと共に一礼を一つ。
「僕はティエラ。ただの冒険者だよ。よろしくねっ!」
「私はシオンですわ。今はティエラの仲間ですの。よろしくお願いしますわ」
そして、それへと答えるように僕とシオンも自己紹介を行うのだった。
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