扱い
僕が神官の人たちからの願いで大量にいた負傷者を治療した人たちは今、一旦は迷宮都市アネッロの方に滞在していた。
そして、そんな人たちは。
「神様。おはようございます。今日も良い天気ですね。これもすべては神様の御心によるもの……」
「いや、だから……僕は神様なんかじゃ」
「またまたご謙遜を……」
「いや、謙遜なんかじゃ……」
「ありがたや、ありがたや」
僕を見るなり、神と崇め、祈りを捧げるようになっていた。
「……うーん」
それを前にして、僕は日々の日課である素振りにも身が入らなくなるくらいには困っていた。
一方的に神様扱いされて、崇められても別に嬉しくはない。
「……何かしら?」
「うぅ……」
それに、こんな光景を目の前にして、近所の人たちの方も困惑している。
たまに近所の人まで僕へと祈り始めるせいで、本当に居心地が悪いのだ。
「……帰ろっ」
居心地の悪くなった僕はいそいそと家の中に引き上げていく。
「はぁー、何でこんなことに」
ため息を吐きながら僕は手に持っていた素振り用の木刀を仕舞い、あまりかいてはいない汗を流すためにお風呂場の方へと向かっていく。
「あら?早いですわね」
そんな中で、いつもより早く素振りを終わらせて戻ってきた僕へとシオンが声をかけてくる。
「いや……ちょっと、いつものように僕へと神として崇めてくる人がいて……それが、ちょっとね」
「あぁ、そうですね。あの、大丈夫ですの?」
「……まぁね」
僕はシオンの言葉に対して、一瞬だけ言葉を詰まらせながらも、頷く。
「まずはお風呂に入ってくるよ。一応、軽くではあるけど、汗をかいたからね。いつものようにサッパリしてくるよ」
「えぇ、行ってきますの」
本当に、サッパリしたいものだね。
それにしても、自分の想定していないところから、想定していない形で崇められるってのはこんなにもストレスなんだなぁ……。
「はぁー」
僕は深々とため息を吐いた後、お風呂に向かっていくのだった。
■■■■■
日本人にとってのソウルフードはお米であると共に、お風呂という行為も魂的に元気を与えてくれるような行為だと思う。
「ある程度はサッパリした」
どんな精神状態であっても、お風呂というのは僕に癒しを与えてくれた。
サッパリしてホクホクになった僕はリビングの方に戻ってくる。
「あっ、お邪魔しています」
「あぁ、いらっしゃい」
そんな僕を出迎えたのはシオンだけではなく、家の方へと遊びに来ていたレトンも一緒だった。
「今から朝ごはん作るけど、レトンは食べてきた?」
「いえ、まだです。今日も、ご一緒させていただいていいですか?」
「うん、いいよ。ちょっと待ってね」
シオンとレトンが二人でソファに座ってまったりとした様子を見せている中、僕はキッチンの方に向かっていく。
「灯れ」
キッチンの方についた僕はコンロへと魔法で火をつけ、お鍋へと火をつける。
お鍋の中に入っているのは、昨日。シオンと二人で楽しんだ鍋の残りに自分で見つけ出して品種改良を重ね、ある程度は食べられるようになった白米を入れて作った雑炊だ。
昨日のうちから、温めれば食べられるような状態にしておいた。
僕は熱せられる雑炊が入っているお鍋の中をかき混ぜていく。
そんな中で。
「ねぇ、レトン」
ぐつぐつと煮えたぎる鍋からは少し、視線を外した僕はレトンの方に声をかける。
「聖女として、さ。レトンの方から何か言ってくれない?あのままというのはちょっと……」
「何を言っておられるのですか?」
だが、そんな僕の言葉に対して、レトンは心の底から不思議そうに首をかしげる。
「ティエラ様は神様でしょう?」
「うっ……」
本気の表情で、濁りなき瞳で、真っすぐに告げるレトンを前にして、僕は言葉を詰まらせながら……足を一歩だけ引く。
「あっ」
ちょうど、そんなタイミングで鍋が噴きこぼれてしまい、慌てて火を僕は止めに行った……まさか、雑炊で吹きこぼれるとは思ってもいなかった。
水が、多すぎたのだろうか……。
「……」
……。
…………もう、限界かなぁ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます