救援

「こっちの方は終わったよっ!これでちょっと危ないところにまで入っていた人たちは助け終わった!」


「わかりましたっ!ただ、生死を彷徨っている人達に関してはまだですっ……私一人では全然追いつきませんっ!数が多すぎます!」


「わかった、そっちの方も手伝うよ!治せる人は治しちゃうきけど、無理な人は応急処置に済ませちゃう!毎度、任せてすまんねっ!」


「いえ!私の方こそ遅くてすみません……数では圧倒的に負けてますっ!」


「いやいや、僕の方がまだ傷の浅い人が多いからねっ!互いにリスペクトをもってやっていこう!」


「はいっ!」


 またか。

 そう思うようなドタバタ救護、僕とレトンによる救援活動が今も繰り広げられていた。

 ずいぶんと巨大な馬車。

 そこの中に寝かされている百数名規模の患者を前にして、僕も、レトンも大忙しだった。

 何をどうしたら、どんな目的でこれだけの人を大量に運ぼうという考えになるのか、大変疑問しか湧き上がってこないが、それでも僕は命を助けるために奔走して回っていた。

 そんな自分たちのいる馬車が立ち往生している場所は未だ、魔物も普通にいるような森の中。

 馬が早々と逃げてしまっているためにここで止まるしかないのだ。


「悪いが、そっちの方には行かせないぞっ!」


「おらぁぁぁぁぁっ!お前ら魔物くらい!俺の筋肉の相手ではないわァっ!!!」


「そっちの方のは任せちゃっていいかしら?」


「大丈夫ですわ。さっさとこちらの方に近づいてきそうな群れは前もって潰しておきますわ」


 そんな状態の中で、馬車を守っているのはインターリとジャーダ、リトス、シオンの四人だった。

 それまで必死に馬車を守っていた護衛の方々は既にボロボロでこっちの方に引っ込んでいる。


「……うーん」


 それにしても、本当にシオンはもう普通に主人公たちのメンバーに馴染んでいるな。

 自分のことを殺そうとしたメンバーと良く、一緒にあれこれ出来るよね。

 ジャーダとリトスがシオンに謝罪しているのは見たことあるけど……。


「もう、大丈夫そうかな」


 僕のことを監禁した時のような、そんな危うさも見受けられない。

 もうシオンの方は大丈夫なのかも。

 もしかしたら、シオンのような高スペックで美人な女性から、いつ頭打ちになってもおかしくない器用貧乏の僕が捨てられちゃうのも時間の問題かも。


「……はーい、今、治しますよ」


 そんなことも考えながら、僕は治療魔法を最大限にフル活用して手際よく重症者の傷を治してあげる。


「お、おぉ……貴方は、神、我が神か……?」


「幻覚見えている……まだ、意識が混濁しているのかな。ゆっくり寝ていてね、おじいちゃん」


「おぉ……神だ。私の、私の長年の祈りはぁ、天にぃいい」


「……否定するのもかわいそうだな」


 涙を流し始めてこっちのことを神と呼び始めた何が見えているのかよくわからないおじいちゃんをそのままにして、僕は別の人を治療しに行く。

 そして。


「あぁ……貴方が、神様ですか?」


「またかいな」


 おじいちゃんの次に治した足の不自由な女の子からも神様扱いを受けてしまう。


「まったくもう。どんな勘違いだよ」


 それにしても、僕が神様だと勘違いされる事例が多すぎるのではないだろうか?

 ただの平民が回復魔法をかけて回っているだけだぞ。何でそれで神が現れたと勘違いするんだ……どれだけ限界の状態にまで追い込まれていたんだが。

 それに、神を勘違いするのなら僕の方じゃなくて、もっと神々しい光を纏いながら魔法を発動させているレトンにしなさいよ。僕とか一切光もなく、ただ手をかざすだけだからね?派手さもゼロ。

 明らかにレトンの方が……いや、レトンの方は有名すぎるのか。

 レトンだと、聖女様に助けられた!になってしまうせいで、初めて見る知らん餓鬼の方が神扱いになってしまうのだろうか?

 どちらにしても、畏れ多い話だけど。

 

「よし、これでよしっ!」


 そんなことも考えながら、目の前にいる少女の生まれつき?なような気もする足の悪さも一緒に治してしまった僕は満足して立ち上がる。


「えっ……足、がぁ?」


「次々」

 

 そして、また別の患者の方と向き合っていく。

 あまりにも患者が多すぎる。

 僕には一切の休みがなかった。

 

「急を欲するところは、何とかなったかな?」


 そんな休みもない中、魔法をかけ続け、途中で魔力が足りなくなって溢れんばかりの魔量を持つシオンから少しだけ拝借もして、何とか僕は軽傷の人を除く怪我人を治すことが出来ていた。


「回復魔法をかけますね」


「おぉ、ありがたい」


 後の人は軽傷。

 そして、それくらいの傷ならここに重傷者として倒れていた何人かの回復魔法の使い手の人が治せる。

 僕とレトンはもうお役御免となっていた。

 

「……」


 そんな中で、僕がせっせと余った魔力でこの場にいる多くの人が抱えていた障害の方もついでに治していく。


「ようやく新しい馬を持ってまいりましたー!」


「おぉー」


 そんなことをしていると、街の方から逃げていった馬の代わりに新しく馬を連れてきた自分の家にも来ていた三人の神官が自分たちの元にやってくるのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る