頼み
レトンの問題は非常に単純だ。
回復魔法が暴走して、必要以上に体の状態を良くしてしまったことによって、体がオーバーヒートしてしまったことにある。
なら、その対処をするのなら簡単だ。
レトンが無意識下でも発動し続けている回復魔法をジャミングさせるだけでいい。
それだけで体の調子は自然と正常に戻っていくだろう。
「ん、うぅん……」
僕がレトンの手を握り、その回復魔法の邪魔をし続けていた中で、ようやくレトンがその意識を覚醒し始める。
「あっ、起きた?」
そんなレトンに僕は声をかける。
「……え、えっと、これは、どう言う状況ですか?」
そんな僕のことをレトンは見ながら、疑問の声をあげる。
「いや、具合が悪そうだったからさ、もう大丈夫そう?」
「えっ?あっ……えっと、私は確か突然、体が熱くなったと思ったらそのまま気を失っちゃって」
「そうそう。大丈夫だった?結構心配したんだよ?」
「だ、大丈夫です……え、えっと、手を握るだけで治したんですか?さすがは……」
「いや、そんなことはないよ。多分だけど、レトンってば、自分に対して常時、回復魔法をかけ続けているでしょ?」
「えっ?あっ、はい……そうですね、なんで、それ?」
「それが暴走しちゃっていたよ、自分の体を必要以上に回復し続けちゃって、それで体が耐えきれなくなっちゃった感じかな?」
「えっ!?そ、そんなことあるはずが……」
「精神的に色々と変化があると、知らず知らずのうちに回復魔法の能力が上がっちゃうから、気をつけて?僕もたまにやっちゃうから……」
回復魔法の暴走とか想定外の事態にもほとがあると思うが、そういうこともあるのだ。
僕だって、自分で自分がその原因を突き止めた時は驚いたものだ。
「そういう、ものなんですか?」
「そういうものなの」
僕はレトンの言葉にうなづく。
こればっかりはそういうものだとしか言うことができない。
「まぁ、レアな話だと思うけどね。そもそもとして、寝る時も含め、常時回復魔法を自分にかけ続けている人なんてまずいないし」
これは日々の疲れを、そのまま直で治せる便利な魔法だけど、寝ている時も魔法をかけるとか高難易度にもほどがある技だからね。
「というか、ティエラ様も常時回復魔法を使えるんですね」
「そうだよ」
僕はレトンの言葉にうなづく。
とはいえ、自分のはゲームでレトンが使っていたのを思い出して、それを猿真似しただけなんだけどね。
「聞きましたか?」
なんてことを僕が考えていた中で、レトンがその背後にいた教会の人たちへと疑問の声を投げかける。
「あっ、そういえば、そうだ。その後ろの人たちは誰?」
そして、ここに来てようやく僕は自分の後ろにいた方々たちについての疑問の声を上げる。
さも当然のように神官服の三人は一体どこの、何処繋がりの人なのだろうか?
僕はこんな神官の知りあいはいないよ。
「この人たちは教会の人たちですよ……どうですか?皆さん、私に匹敵する回復魔法の奇跡を見ましたか?」
「えぇ、そうですね」
「これは……凄まじいですね。圧倒的です」
「しかも、聖女様とは違って杖などはなしにですからね」
「……いや」
だから、誰なのだろうか?
この人たちは。
別に知らない人から一方的に認められても……。
「お願いがあるのです」
「……何でしょう?」
僕が困惑している中、神官服の一人に頼みがあると切り出されて疑問の声で返す。
「ここから少し先のところで多くの人たちを乗せた馬車が事故を起こし、多くの負傷者が出て、立ち往生している最中なのです。人数的にも聖女様ただ御一人というのは中々に厳しく……出来れば、その応援として、お力をお借りしたいのです」
「むむっ」
そんな僕へと神官服の男が告げる頼みとは人助けをしてほしいというものだった。
「それは仕方ないですね。自分が力になれるのであれば、力になりますよ」
それを言われたたら、ちょっと断りにくいよね。
「本当ですかっ!」
「えぇ、ただの平民ですか、それでも自分がお力になれるのでしたら」
「ハハハ!ご謙遜を、貴方のことはレトン様からよく聞いていますよ」
「はぁ」
平民であることはただの事実なのだが。
一体、どこら辺が謙遜になっているのだろうか。
「怪我人を待たせるわけにはいきません」
何となく違和感を覚えるが、それを押し流して僕は口を開く。
「その現場へと案内してもらえますか?」
「もちろんです。それではこちらに」
そして、そのまま僕は神官の人に現場にまでの案内をお願いするのだった。
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