突然

 前哨基地から地上の方へと戻ってきた僕とシオン。


「おー!待っていたぞ、二人とも。ようやく来てくれたかっ!」


「むっ!地上に戻ってきたのかっ!」


 それを出迎えたのはインターリとジャーダだった。


「迷宮の入り口に立って……何をしているの?」


「僕たちはティエラが来るのを待っていたんだよ」


「ここで待つほど?」


「あぁ、そうだ」


「……何があったの?」


 少しだけ嫌な予感のする僕は自分の前にいるインターリへと疑問の声を投げかける。


「そう、だな……何があったのか、と一言で聞かれると困るわけだが。簡潔に言うと、レトン関連がちょっと不味くてだな」


「レトンが……?」


「……ッ!?」


 この時期にレトンが何か、というゲームのイベントはなかったよね?

 それに、昨日も元気だった。


「何があったの?」


「とりあえず来てくれ」


「……早く行きますわよ?ティエラっ」


「う、うん」


 何故か妙にやる気の高いシオンも含め、僕はインターリとジャーダの二人に連れられて、レトンの元へと向かっていく。


「……また、僕たちの家かい」

 

 レトンが何処にいるのかと思っていたら、連れていかれた場所は何時もの通りに自分たちの家だった。

 別にここはレトンたちの家じゃないんだけど?

 細やかな不満も抱きながら、僕は家の中へと入っていく。


「大丈夫?ねぇ、大丈夫なの?」


「「「……」」」

 

 家の中には、顔を赤くしてぐったりとした様子のレトンに、見知らぬ神官服を着た大男たち三人が……むぅ、レトンの方はちゃんときつそう。


「だ、大丈夫ですの?」


「問題ないと思うけど」


 僕は心配そうにしているシオンを置いて、すぐにレトンの方へと駆け寄っていく。


「あっ!ティエラっ!急にレトンが顔を赤くして倒れちゃったんだけど……ど、どうしたらいいか、ってわかるっ!?」


「……」


 リトスに話しかけれながらも、それを無視して僕は淡々とレトンの体に触れ、その状態を把握していく。

 

「なるほどね」


 そして、すぐに今のレトンの状況の把握が終わる。

 

「そこまで問題なさそう」


「ほんとっ!?」


 今のレトンの状態は僕が触れてみた感じ、回復魔法の暴走、に近いような状況だと思う。

 恐らくであるが、レトンは日常的に常時、自分へと微弱な回復魔法をかけ続けているのだろう。

 だけど、ふとした拍子でその回復魔法の出力が向上。それにずっと気づかず、回復魔法をかけ続け、その結果。

 回復魔法によって必要以上の回復を強いられて体が限界を迎えた、ということだろう。


「前に僕もなったことあるからわかるよ、これは」


 僕も日常的に常時、回復魔法をかけ続けて日々の疲れがほんの少しでもたまらないようにしているからわかる。

 前に、僕もこれとまったく同じような状況になってことがあるからね。

 

「ちょいと失礼」

 

 僕は風の魔法でレトンの指に小さな切り傷を作り、その指から血を垂らさせる。

 だが、その傷はすぐにレトンの回復魔法によって治される。


「うん、間違いないね」


 これで確定的だ。


「ほ、本当に大丈夫なの?」


「うん」


 回復魔法を得意とする僕だからこそわかる。

 レトンが何か、重篤な状況に陥るなんてめったにないことを。

 そして、それが何の前触れもなく……なんてことはありえないと言っていいレベルであることも。

 だから、僕はそこまで焦っていなかったのだ。


「処置しちゃうね」


 この状況にもう僕は二回くらいなっている。

 初回ならともかくとして、この状況の対処に関しては僕もうプロレベルである。

 僕はちゃっちゃっとレトンの処理を進めていくのだった。

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