前哨基地
召喚魔法は召喚にも、そして、維持にも魔力が必要になってくる。
そのために大量の数をぶちまけるという戦法は使えないのだが……。
「大行進っ!」
どうせ、すぐに安全圏に行けるのであれば別に問題ない。
僕は召喚魔法で大量のデコイを召喚して一気にばら撒いていく。
「よしっ、これでしばらくの間。魔物たちはデコイの方に気を取られて動けなくなるはず……今のうちにさっさと前哨基地へと行こうか」
大蛇を倒した場所からしばらく進んで、前哨基地まで近くなってきた頃に秘密兵器を投入した僕はシオンへと声をかけながら、歩き始める。
「そうしますわー」
「……」
気配を消したり、音を立てないようにしたり、なんかは僕の得意分野である。
自分の存在を周りに隠すような魔法は僕の十八番だ……まぁ、大体十八番だけどね?
僕はシオンも一緒に周りから感知されないようにしたうえで、デコイに紛れてズンズンダンジョンを進んで前哨基地を目指していく。
「おー、ここがっ」
そして、前哨基地はすぐに見えてきた。
普段は硬く閉じられているはずのボス部屋に入るための扉。
それが完全に開放されているその先に、確かな人の営みの姿があった。
「凄いね、これは」
「そうですわね……ここまで栄えているとは思いませんでしたわ」
前哨基地への出入りは自由。
ここは冒険者の為に開かれた土地。
そこを僕とシオンは共に辺りを見渡しながら進んでいく。
「これは……壮観ですわ」
この場には武器を整備するための場所であったり、補給するための場所だったりが用意されている。
迷宮の深層だからこそある、貴重なものなども数多く置いてあり、ただ見ているだけで感嘆の声を漏らしそうな数々だった。
いやぁー、これが見たかったんだよ。世界最高峰の冒険者たちが集まり、迷宮という一つの難題を攻略するために作り上げた拠点。
見ているだけでワクワクしてくる。めっちゃテンションあがるわっ!これ。
「おー!お前ら、もしかして新星の二人か?」
「はぅ?」
僕がワクワクとした気持ちを抱えながら、前哨基地を進んでいると、ここの飯どころでご飯を食べていた人から声をかけられる。
新星……?何、その呼び名。
めちゃくちゃ初めて聞くけど。
「何だ?知っている奴か?」
僕が初めて聞く呼び名に戸惑っていると、その間に自分へと声をかけてきた冒険者へとまた別の、冒険者の方が声をかけてくる。
「ほれ、俺らが迷宮にこもっている間に起きた事件あったろ?街が襲われたあの。あれを解決させた子だよ。それに、あの良くわからねぇ魔物が地上に行きかけたのを止めた子だよ」
「あぁ!あの英雄の子かっ!」
英雄……?何、その呼び名。
めちゃくちゃ初めて聞くけど。
「いやぁー、俺らが動けんかった中で街を守ってくれてありがとなっ!地上の方が潰れたら俺らも動けないからな。マジで助かったわっ!」
「おー、とうとうあの子が来たのかい」
「マジで?あの子がここにまで潜ってきたの?」
全然知らない己の呼び名に困惑していた中で、自分の周りへと多くの人が集まって来て僕とシオンを囲い始める。
「俺の見立てではまだここに来るほどの実力はねぇな、って感じだったが……もう来たのか?」
「育ちざかりなので」
「あー、確かにそうか。年は……幾つだ?なんかまだ十歳くらいに見えるわ」
「それは失礼じゃない?15だよ、僕は」
「わっかっ!?うそだろ、最年少じゃね?前哨基地到達は」
「かもしれねぇなぁ……マジか。そりゃあ、英雄にもなるってもんよ」
「……別に僕は英雄になった記憶はないんだけど」
僕は自分の周りを囲ってやいのやいの声をかけてくる冒険者たちの言葉に次々と返答していく。
「にしても、これからどうするんだ?このまま最前線で戦う者入りするのか?」
「いやぁ、まだ決めていないかなぁ~。僕は世界を見て回りたいという夢があってね。この迷宮の一番下まで行くか、それともここの前哨基地を見て満足して、また別の街に行くか。それを悩んでいるんだよねぇ」
「おー、世界を見て回りたいはともかくとして……俺らが生涯かけるつもりでいる迷宮の最下層到達を旅の途中みたいなノリで言うか。ずいぶんと軽く見てくれるじゃねぇの」
「そりゃまぁ、自分たちは育ちざかりなのでっ!行ってみせるよ!」
「育ちざかり便利だなぁ、おい」
「若者ってのはこれくらい向こう見ずじゃねぇとなぁ」
「まぁ、とりあえずのところ、26階層の転移陣を踏んでおけよ?外に出るなら、ここが安全地帯じゃなくなっているだろうからよ」
「そのつもりだよ。二、三年後くらいにまたここに来て、最下層までの攻略法が出ていることを期待している」
「おっ、言ってくれるじゃねぇか」
「若者の期待には答えるべきか?やっぱりよぉ」
僕の発言に対して、周りの冒険者たちは不敵な笑みを浮かべ始める。
「とりあえず、今日のところはもう失礼しようかな……魔力ももうクタクタで。あと少しくらいある程度見て回ってから、地上に帰ろうと思っている」
「おう、それがいいさっ!ほれ、これは俺からの餞別だ。ここ名物。適当な魔物の肉を焼いてパンで挟んだだけのもんんだ。結構うめぇぞ?」
「おっ、ありがとうっ!それじゃあ、これだけいただいちゃう!」
僕とシオンは冒険者の一人から食べ物を貰った後、その人たちの輪から離れていく。
「あむっ……んっ、おいちぃ」
もらった肉のサンドは、何の肉の味かは正直良く分からなかったけど、シンプルな味付けで直球に美味しかった。
「いいところだねぇ」
いやぁー、実に温かい人たちだった。
やっぱり一流は人格面も一流だね。
「えぇ、そうですわね。貴方の幸せそうな表情が見えて私も幸せですわ」
「そぉ~?僕なんて見ても面白くないと思うけどぉ」
僕はシオンと雑談を交わしながらまったりと前哨基地をみてまわり、地上へと帰っていくのだった。
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