迷宮二十五階層

 何処まで行っても変わらない光景。

 一階層も、二階層も、25階層もずっと同じ光景。

 それを進む僕たちであるが。


「ガァァァァァァァアアアアアアアアアアアア」

 

 その前に立ちふさがる魔物のレベルの高さとしては、一階層の時とはまるで比べものにはならない。


「ほっ」


 自分の前に立つ巨大な蛇の魔物。

 魔王になる前の、キメラだった時の尻尾を思い出すかのような巨大な大蛇を前に僕は地面を蹴ってその場を飛んで自分の前に迫るその大きな牙が生えそろう口を回避する。


「ふぅー」


 そして、人魂を魔剣グリムに宿らせて鋭さを強化させ、硬いうろこに覆われた大蛇へと振るう。


「よしっ」


 その僕の剣は何とか、大蛇のうろこを斬り裂き、その内部にある肉まで斬り裂くことに成功する。

 そんな中で。


「貫け」


 シオンも魔法を発動させて火の矢を作り出し、僕を狙うために大きく開けていた口へと突っ込んでいく。


「ガァァァァァァァアアアアアアアアアアアア!?」


 うろこを貫けて肉を斬り裂かれ、その内部を炎の矢で焼かれた大蛇は大きな悲鳴を上げる……うん、シオンの攻撃の方が絶対にダメージが深いね。


「よっと」


 とはいえ、僕は攻撃を辞めるつもりはないけど。

 一度、大蛇の上を陣取った僕はそのまま素早く彼の体を走り抜け、その体を斬り刻み、一気にダンジョンの中を赤く染めあげる。


「ガァァァァアアアアアアアアアアアアアアアっ!!!」


 そんな中で、大蛇は僕のことを気にすることなく、一切迷わずに後方へと立つシオンの方に全速力で向かっていく。


「それは許さないよ?」


 だが、それを既に大蛇の尾から頭の方に戻ってきていた僕が強引に止める。

 大蛇の突進を僕は己の体と剣一つで強引に押しとどめ、その体を停止させた。


「行けますわっ」


「りょっ」


 そして、そんな僕は大蛇を止めた後に上へとまた跳躍。

 上に飛んだ僕は剣を振るうのではなく、隠れるように大蛇の体へと身を潜めていく。


「敵を食らえ」


 その次の瞬間。

 光り輝くシオンの杖より魔法が発動され、炎の龍が迷宮の中を駆け抜けて己よりも小さな大蛇へと絡みつき、その体を一気に燃やしに行く。


「風よ」


 そんな中で、大蛇の影に隠れて息をひそめる僕は風魔法を発動させ、炎の龍の猛威を強引に引き上げる。


「ガァァァァァァァアアアアアアアアアアアア」


 体が焼け、燃え盛る。

 大蛇は悲鳴を上げながらその場で暴れ、それでも、その炎に対応しようとその体を変質し始める。

 炎の龍の温度に耐えうる体へと、己の体を変質させていく。自分たちの前にいる大蛇の大きな強みが適応力であり、変温動物であることの外気温への適応……だけにはとどまらない。

 何故か水に沈められたエラ呼吸を覚え、傷が深くなれば再生能力を手にし、強い衝撃を受ければそれに伴ってうろこも硬くなる。

 そんな異次元ともいえる適応能力を持つのがこの大蛇である。


「……ここだな」


 そんな大蛇の影に隠れるのではなく、魔法によって体を保護し始めていた僕は火の手の中に飛び込み、爛れ始めている蛇の体、その心臓に向かって己の剣を突き刺す。


「ァァァァアアアアアアアアアアアッ!?」


 適応能力でもって、火の手に抗おうとしていた大蛇。

 その道のりの途中でしかなかった大蛇は僕の手にある剣によって心臓を貫かれたことで体をビクンっと震わせる。

 

「ァァァァ───」


 そして、次第に火の熱への耐性を持ち、無敵になろうとしていた大蛇はだがしかし、心臓を貫かれたことでその適応能力を失ってその体を溶かし始める。


「あちち」


 既に大蛇は死んだ。

 それを近くで確認し終えた僕は燃え盛る大蛇の元から離れて安全を確保する。


「大丈夫かしら?」


「もちろん……ちょっと熱かったけどね」


 そこまでは強い強度で張っていない結界を平然とつらぬいて普通に熱がやってきていたので、全然熱かったけど、一応は耐えられるようなレベルだった。

 こんなところで悲鳴は上げていられないのだ。


「それならよかったわ」


 そんな僕に安堵した表情を見せた後。


「じゃあ、一気に燃やし尽くしていくわね」


 シオンは魔法の威力を一気に引き上げ、強引にその体を燃やし尽くしていく。

 後に残るのは大きな魔石だけである。


「これで大蛇も撃破と」


 僕はその魔石を回収し、自分が背負っていたリュックに仕舞いながら満足げに頷く。


「そろそろ前哨基地……この調子でさっさと走り切っちゃおう。どうせ、ボス戦はないからね」


 道中の間に魔力とかを使い切ってしまっても別に問題はないからね。

 いつもよりはちょっとだけ余裕があると言える。


「わかりましたわ、急ぎますの」


「うん、そうだね」


 僕はシオンと共に、目的地であった前哨基地に向け、その歩みを一気に進めていくのだった。

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